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2026/4/30
同じ僧侶でもビザが変わる理由 〜在日外国人の宗教事情〜
皆さん、こんにちは。未来扶桑行政書士事務所 行政書士の樋口裕昭です。
2024年末の在留外国人数は376万8,977人と過去最高を更新し、日本はいまや多文化・多宗教が共存する社会に変わりつつあります。異国の地で生活する外国人にとって、宗教は精神的なよりどころとして欠かせない存在です。礼拝の場に集い、同郷のコミュニティとつながり、母国の言葉で祈る——その営みを支える宗教家や宗教施設の存在は、在日外国人の暮らしの根幹を支えているといっても過言ではありません。
今回は、外国人が日本で宗教活動を行うために必要な在留資格を軸に、日本で実際に布教・修行を行う外国人宗教家の実情、修行の場として知られる著名な寺院・宗派、そして在日外国人が頼りにする宗教施設の広がりと、宗教法人を新たに設立する際の手続きについても触れていきます。

「布教」と「修行」では、在留資格がまったく違う
外国人が日本で宗教に関わる活動を行う場合、その目的によって必要な在留資格がまったく異なります。「布教」を目的とするなら在留資格「宗教」が、「修行」を目的とするなら在留資格「文化活動」が該当します。同じ僧侶であっても、「教えに来る」のか「学びに来る」のかという違いが、適用される在留資格を分けるのです。在留資格の種類は現在29種類あり、それぞれ活動の目的に応じて細かく設計されています。
在留資格「宗教」——布教する宗教家のビザ
誰が対象になるのか
在留資格「宗教」は、信教の自由を保障し、外国の宗教団体から派遣される宗教家を受け入れるために設けられた在留資格です。宣教師、牧師、神父、イマーム(イスラム教指導者)、そして仏教僧侶など、様々な宗教の指導者が対象となります。
この在留資格の最大の特徴は、報酬を受けながら活動できる点です。派遣元の外国宗教団体または日本の受け入れ宗教法人から給与や謝礼を受け取りながら活動することが認められています。在留期間は5年・3年・1年・3か月のいずれかで、更新を繰り返すことが可能です。
申請のポイントと注意事項
申請にあたって審査で重視されるのは主に次の点です。外国の宗教団体から正式に派遣された事実を示す派遣状・推薦状があること、日本国内に受け入れ宗教法人が存在しその法人の拠点施設があること、そして宗教家としての地位・職歴を証明できることです。ホテルの1室・月単位の短期賃貸スペースなどは、活動の拠点となる施設として認められませんので、注意が必要です。
また、「外国の宗教団体」の定義において、必ずしも本部が外国にある必要はなく、本部が日本にある宗教団体であっても、外国に宗教上の活動を行う組織を有していれば「外国の宗教団体」に含まれます。
在留資格「文化活動」——修行する僧のビザ
なぜ修行は「文化活動」なのか
禅修行や仏教修行を目的として来日する外国人には、在留資格「文化活動」が該当します。禅は入管法上「日本固有の文化・技芸」として位置づけられており、外国人が日本のお寺で坐禅・修行を通じて禅の精神や技法を学ぶことは「日本文化の修得」と解釈されます。禅のほか、剣道・柔道・空手などの武道、茶道・華道・書道なども同様に「日本固有の文化・技芸」として認められており、修行目的の来日はこれらと同じ枠組みで扱われます。
報酬なし・在留期間最長3年
この在留資格の最大の制約は、報酬を受け取ることが一切できない点です。修行中の生活費は自己資金または支援者・支援団体からの援助によって賄う必要があります。在留期間は最長3年で、審査では生活費の裏付けとなる銀行残高証明書などの提出が求められます。修行を続けるかぎり生活費の自己確保が求められるという点は、在留資格「宗教」との最も大きな違いの一つです。
修行の場として世界に知られる寺院・宗派
外国人が修行のために来日する場合、実際にどのような寺院や宗派を訪れているのでしょうか。代表的なものを紹介します。
曹洞宗・大本山永平寺(福井県)
禅の修行道場として外国人に最もよく知られた寺院の一つです。修行僧(雲水)が200人近く生活しながら坐禅に励む道場として、外国人を大いに感動させる独自の世界観を持っています。修行僧の一日は午前3時30分(冬は4時30分)の起床からはじまり、早朝の坐禅、法堂でのお経、食事、廊下の雑巾がけ、寺院の維持管理と坐禅・礼拝の繰り返しで構成され、午後9時の就寝まで一瞬一瞬を修行の場と捉える厳格な生活が続きます。この圧倒的な厳しさと精神性こそが、世界中の人々を惹きつける理由です。
高野山真言宗・総本山金剛峯寺(和歌山県)
弘法大師空海が平安初期に開いた真言密教の修行道場であり、世界遺産にも登録されています。標高約850mの高地にある高野山の集落には2,500余人が居住し、うち約700人が僧侶という、文字通りの宗教都市です。境内には117の子院と52の宿坊寺院があります。高野山には現在12か国の僧侶が在籍し、彼らの言語を通じて高野山の魅力が世界に発信されています。宿坊に宿泊する外国人の中で最も多いのがフランス人で、次いでアメリカ人、オーストラリア・ニュージーランド人と、欧米系の割合が圧倒的に高くなっています。
臨済宗の諸本山(京都)
妙心寺・建仁寺・天龍寺など、京都に本山を置く臨済宗の寺院も、欧米を中心とした外国人の参禅・修行体験の場として国際的な知名度を持っています。禅を通じた精神文化への関心は欧米圏で特に根強く、在留資格「文化活動」を取得して日本の禅寺に長期滞在する外国人は決して珍しくありません。
在日外国人と宗教施設の広がり
布教や修行という形だけでなく、日常生活の中で宗教を必要としている在日外国人も急速に増えています。
急増するモスク
イスラム教のモスク(礼拝所)の増加は特に顕著です。1980年代前半は4か所に過ぎなかった日本国内のモスクは、2024年4月時点で133か所に増加しました。バブル景気時にイスラム圏のイランやパキスタン、バングラデシュから労働者が、1990年代以降は留学生や研修生、技能実習生としてインドネシアなどから来日するムスリムの増加を背景に、三大都市圏から各地の県庁所在地などへと広がっています。東京・代々木上原の東京ジャーミイはその代表格で、オスマントルコ様式の荘厳な建築として広く知られています。近くに住みたいと、モスクの近所に引っ越してくる信者も少なくなく、モスクはムスリムにとってのコミュニティの核となっています。
アジア系仏教・ヒンドゥー教の礼拝施設
在留外国人のうちベトナム出身者が63万4,361人、ネパールがブラジルに代わって第5位となるなど、東南アジア・南アジア系の在留外国人が大幅に増加しています。これを背景に、ミャンマー仏教(上座部仏教)やベトナム仏教の寺院、ネパール系ヒンドゥー教の礼拝施設が都市部を中心に広まっています。首都圏・東海・関西の外国人集住地域には、同郷の人々が集まる礼拝所・コミュニティセンターが増えており、在日外国人の精神的なよりどころとして機能しています。
文化庁宗務課では在日外国人の宗教事情に関する資料集を作成しており、タイ、ベトナム、インドネシア、インド、ネパール、パキスタン、中国、韓国、ブラジルなど13か国・地域の宗教事情を調査しています。これは、宗教施設をめぐる行政対応の必要性が高まっていることの表れでもあります。
日本で宗教法人を設立するには
外国人コミュニティからの設立ニーズ
「自分たちの信仰を日本に根付かせたい」——外国人コミュニティからそのような声が上がるようになり、所轄庁には、外国に拠点を置く宗教団体から宗教法人設立の相談が寄せられるようになっています。宗教法人を取得することで、財産の所有・管理が法人として行えるようになり、活動の継続性と安定性が増します。
設立の要件
まず大前提として、宗教法人になりうるのは宗教法人法に規定する「宗教団体」に限られます。「宗教団体」とは、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、信者を教化育成することを主たる目的とする団体で、礼拝施設を備える神社、寺院、教会、修道院、その他これらに類する団体です。形式的な要件を満たすだけでなく、現に社会通念上独自の宗教活動を行っている実体も必要とされます。
設立にあたって実質的に必要な要件は、専任の宗教家(聖職者)がいること、信者が相当数いること、礼拝施設が当該団体自身のものとして存在すること、財産目録・収支計算書・議事録などが適正に整備されていることです。
設立までに最低3年かかる
最も注意が必要なのが、時間です。認証書発行までの期間は最低でも3年と非常に長期にわたります。所轄庁(都道府県知事または文部科学大臣)との事前協議を経た後、規則を作成し、認証申請の少なくとも1か月前に信者その他の利害関係人に対し規則案の要旨を示して公告しなければならず、所轄庁の認証を受けた後、主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによって成立します。
外国人コミュニティが日本での宗教法人設立を検討する場合、書類の日本語作成、所轄庁との折衝、在留資格との整合性確認など多くの壁が立ちはだかります。早い段階から行政書士・司法書士など専門家に相談し、長期的なスケジュールで準備を進めることが不可欠です。
まとめ
入管法の視点で整理すると、「布教する宗教家」には在留資格「宗教」、「修行する者」には在留資格「文化活動」が適用されます。どちらも宗教に関わる活動でありながら、報酬の可否、在留期間、必要書類、申請要件がまったく異なります。
在日外国人の増加とともに、モスク・上座部仏教寺院・ヒンドゥー礼拝所など多様な宗教施設が日本各地に広がりつつあります。永平寺や高野山のような著名な修行の場が世界中から人々を集める一方で、都市部の片隅では在日外国人が同郷の仲間と集まり、母国の言葉で祈りを捧げる場所も静かに増え続けています。宗教は、異国の地で暮らす人々のコミュニティを結びつける、目に見えない大切な絆です。
今回の記事はいかがでしたでしょうか。「外国人宗教家を日本に招聘したい」「海外の宗教コミュニティから在留資格について質問された」「日本でモスクや寺院を立ち上げたい」といった場面でのご参考になれば幸いです。ご感想・ご意見、またご自身の状況についてのご質問は、どうぞお気軽にお問合せフォームからお寄せください。皆さんのお声をお待ちしております。
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