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制度・動向

2025/12/15

日本移住を考える前に〜カナダ・豪州との制度の違い〜

皆さん、こんにちは。未来扶桑行政書士事務所 行政書士の樋口裕昭です。

海外から日本への移住を考えている方の中には、「カナダやオーストラリアのように、ポイントを貯めれば永住権が取れる」「高学歴で英語ができれば、日本でも永住できるはず」と考えている方がいらっしゃるかもしれません。しかし、日本の在留資格制度は、移民国家として知られるカナダ、オーストラリア、アメリカなどとは根本的に異なる仕組みで運用されています。

この違いを理解せずに日本移住を計画すると、「思っていたのと全く違う」「こんなに厳しいとは知らなかった」という事態に直面する可能性があります。今回のコラムでは、移民国家と日本の永住権取得システムの決定的な違いを明確にし、日本への移住を現実的に検討するための正しい知識をお伝えします。

移民国家とは何か〜カナダ・オーストラリアの例

まず、「移民国家」とは何かを整理しましょう。カナダやオーストラリアは、国家政策として積極的に外国人を受け入れ、人口増加や経済成長を図っている国です。これらの国では、永住権取得そのものが目的化されたシステムが存在します。

カナダのExpress Entry システム

カナダでは、Express Entryと呼ばれるポイント制度を採用しています。このシステムでは年齢(25〜29歳が最高点)、学歴(修士号、博士号で高得点)、語学能力(英語・フランス語の試験スコア)、カナダでの就労経験、配偶者の学歴や語学能力などでポイントが計算されます。

一定のポイントに達すれば、雇用主が決まっていなくても永住権申請の招待状(ITA: Invitation to Apply)が届きます。つまり、「仕事が決まっていなくても永住権が取れる可能性がある」のです。

オーストラリアのSkilled Migration Program

オーストラリアも同様に、ポイント制の技能移民プログラムを運用しています。Skilled Occupation Listに掲載されている職業に該当し、一定のポイント(通常65点以上)を獲得すれば、永住ビザの申請が可能です。ここでも年齢、英語能力、学歴、職務経験年数などが評価され、カナダと同様、先に永住権を取得してから就職活動を行うというルートが可能です。

アメリカのグリーンカード抽選

アメリカには、Diversity Visa Lottery(DV抽選)という独特のシステムもあります。これは毎年約5万人に対して抽選でグリーンカード(永住権)を付与するもので、学歴や職歴の要件はありますが、基本的には運次第で永住権が得られる制度です。

日本の在留資格制度〜就労実績ベースの考え方

一方、日本の制度は移民国家のそれとは全く異なります。日本は移民政策を採用していない国であり、外国人の受け入れは「必要な分野に必要な人材を、必要な期間だけ受け入れる」という考え方が基本です。

在留資格の大前提:「活動内容」による分類

日本の在留資格は、まず「何をするために日本に滞在するのか」という活動内容で分類されます。代表的な就労系在留資格には、技術・人文知識・国際業務(エンジニア、通訳、マーケティング担当者など)、高度専門職(ポイント制だが就労が前提)、経営・管理(会社経営者、事業管理者)、技能(外国料理のコック、スポーツ指導者など)、特定技能(介護、建設、農業など14分野の技能労働)などがあります。

重要なのは、これらはすべて「雇用主」または「事業計画」が先に必要だということです。カナダやオーストラリアのように「ポイントを貯めれば、仕事が決まっていなくても永住権申請できる」システムは日本には存在しません。

永住権取得の条件:10年ルールと素行要件

日本で永住権(正式名称:永住者の在留資格)を取得するには、原則として引き続き10年以上日本に在留していること(就労資格または居住資格で5年以上)、罰金刑や懲役刑を受けていないなど素行が善良であること、独立の生計を営むに足りる資産または技能を有すること、永住が日本国の利益に合すると認められることが必要です。

高度人材の特例として、高度専門職ポイント70点以上で3年、80点以上で1年という短縮措置もあります。この10年ルールが、移民国家との最大の違いです。カナダやオーストラリアでは「先に永住権、後で就職」が可能ですが、日本では「先に就労、10年後に永住権申請資格」となります。

なぜこれほど違うのか〜国家戦略の違い

この違いは、国家としての戦略の違いから生まれています。

移民国家の戦略:人口増加による経済成長

カナダやオーストラリアは、広大な国土と比較的少ない人口を持つ国です。これらの国にとって、移民の受け入れは労働力人口の増加、消費市場の拡大、多様性によるイノベーション創出、高齢化社会への対応という明確な国家戦略の一環です。実際、カナダは2023年に約46万5,000人の永住者を受け入れることを目標としており、これは人口の約1.2%に相当します。

日本の戦略:質的な労働力補完

一方、日本は人口密度が高く、また歴史的・文化的に単一民族国家としての意識が強い国です。外国人材の受け入れは、特定の産業分野での人手不足解消、高度な専門知識・技能の補完、国際化・グローバル化への対応という、より限定的・補完的な位置づけとなっています。「誰でもウェルカム」ではなく、「日本経済・社会に必要な人材を選別的に受け入れる」という考え方です。

高度人材ポイント制度の誤解

「日本にもポイント制があるじゃないか」と思われる方もいるでしょう。確かに、日本には「高度人材ポイント制度」があります。しかし、これは移民国家のポイント制とは目的が異なります。

日本の高度人材ポイント制は、就労が大前提(雇用主や事業計画が必要)であり、永住権取得期間の短縮、配偶者の就労許可、親の帯同などの優遇措置を受けるための制度です。ポイントだけでは在留資格は取れず、あくまで「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格に付随する優遇措置なのです。

つまり、カナダのように「ポイントを貯めれば永住権申請の招待が来る」のではなく、「日本で働く高度人材に対して、永住権取得までの期間を短縮する」制度なのです。

実務上の大きな違い〜タイムラインの比較

具体的なタイムラインで比較してみましょう。

カナダ・オーストラリアのケースでは、語学試験受験・学歴認証(3〜6ヶ月)、ポイント計算・プロファイル作成(1ヶ月)、ITA(招待状)待ち(数ヶ月〜1年)、永住権申請(6〜12ヶ月)を経て、永住権取得後に就職活動を行います。最短で1年〜2年程度で永住権を取得し、その後ゆっくり就職活動ができます。

一方、日本のケースでは、日本国外から就職活動(期間不定)、内定取得・在留資格認定証明書申請(1〜3ヶ月)、入国・就労開始、継続的な就労を10年間(高度人材なら1〜3年)、永住権申請(4〜8ヶ月)、永住権取得という流れで、最短でも10年以上(高度人材でも1年以上の就労後)かかります。

「仕事があれば誰でも住める」わけではない

もう一つの重要な誤解は、「日本企業から内定をもらえば、誰でも就労ビザが取れる」というものです。これは半分正しく、半分間違いです。

日本の在留資格申請では、学歴と職務内容の整合性(大学で学んだ専攻と日本で行う業務の関連性、専門学校卒の場合の関連分野での職務経験、職務内容が単純労働に該当しないか)、会社の安定性・継続性(事業の実態、外国人を雇用できる財務状況、適切な給与を支払えるか)などが厳しく審査されます。

つまり、「ファストフード店で接客業務」「工場での単純作業」といった職種では、たとえ雇用主がいても就労ビザは取得できません。

日本在留中の義務とコスト〜2026年度からの厳格化

日本で在留する外国人には、移民国家以上に厳格な義務が課されています。特に見落とされがちなのが社会保険料の負担です。

社会保険への加入義務

日本で就労する外国人は、日本人と同様に以下の社会保険への加入が義務付けられています。

  • 健康保険・厚生年金保険:給与の約15%(会社と折半で約30%)

  • 雇用保険:給与の0.6%程度

  • 所得税・住民税:累進課税

これらの負担は、国によっては驚くほど高額に感じられるかもしれません。例えば、月給30万円の場合、社会保険料だけで月額約4万5,000円(会社負担分を含めると約9万円)が徴収されます。

コストに見合う安心・安全

一方で、この負担の対価として日本では以下のサービスが受けられます。

  • 国民皆保険制度:医療費の自己負担は原則3割

  • 年金制度:老齢年金、障害年金、遺族年金の受給資格(一定の加入期間が必要)

  • 雇用保険:失業時の給付、職業訓練の機会

これは世界的に見ても非常に充実したセーフティネットです。治安の良さ、清潔な環境、高度な医療サービスなどと合わせて、日本で安心・安全に暮らせる基盤となっています。

怠ると在留資格を失うリスク

しかし、これらの義務を怠ると重大な結果を招きます。

2026年度からの審査厳格化:

  • 出入国在留管理庁は、在留資格の更新審査において社会保険料の納付状況の確認を厳格化する方針を示しています

  • 健康保険料や年金保険料の未納・滞納がある場合、在留資格の更新が不許可となる可能性が高まっています

  • すでに一部の地域では、社会保険料の納付証明書の提出を求められるケースが増えています

永住権申請への影響:

  • 永住権申請時には、過去5年間の社会保険料納付状況が厳しく審査されます

  • 未納期間がある場合、「素行が善良である」という要件を満たさないと判断される可能性があります

  • 意図的な未加入や滞納は、永住権申請の致命的な障害となります

つまり、日本では「働いて税金だけ払えばいい」のではなく、社会保険への加入・納付が在留継続の絶対条件なのです。これは移民国家にはない、日本特有の厳格な管理体制と言えます。

まとめ〜正しい理解が成功への第一歩

日本への移住を検討している外国人の方に理解していただきたいポイントをまとめます。

日本と移民国家の根本的な違い:

  • 日本は移民国家ではなく、外国人材を補完的に受け入れる政策を採っている

  • 「先に永住権、後で就職」ではなく、「先に就労、長期間後に永住権」が原則

  • ポイント制度はあるが、永住権取得期間の短縮措置であり、移民国家のような永住権直接取得制度ではない

日本で長期滞在・永住を実現するには:

  • まず日本企業からの内定を得る必要がある

  • 内定を得ても、学歴・職務内容の要件を満たす必要がある

  • 10年間(または高度人材として1〜3年間)の継続的な就労実績が永住権の前提となる

  • 社会保険料の納付、納税などのコンプライアンスが在留継続の絶対条件

  • 2026年度以降、審査がさらに厳格化される見込み

この現実を踏まえた上で、「それでも日本で生活したい」という強い意志と計画性があれば、日本での長期滞在や永住は十分に実現可能です。次回以降のコラムでは、具体的にどのように日本での就職活動を進めるべきか、実践的なステップをご紹介します。


今回のコラムは、日本への移住を検討されている外国人の方にとって有益な情報となりましたでしょうか。ご感想やご質問がございましたら、お気軽に当事務所のお問合せフォームからお聞かせください。皆さんの日本での新生活実現に向けて、少しでもお役に立てれば幸いです。

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