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就労系ビザ
2026/1/21
技人国ビザと給与水準~適正な報酬額の判断基準~
皆さん、こんにちは。未来扶桑行政書士事務所 行政書士の樋口裕昭です。
技術・人文知識・国際業務ビザ(以下、技人国ビザ)の申請において、給与水準は業務内容や学歴と並んで重要な審査要素の一つです。入管法では「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」という基準が定められていますが、この「同等額以上」の具体的な解釈は必ずしも明確ではありません。給与が低すぎれば不許可のリスクとなり、一方で企業にとっては人件費負担も考慮する必要があります。本コラムでは、技人国ビザにおける適正な給与水準の判断基準について、職種別・地域別の相場、新卒と中途の違い、審査での立証方法など、実務的な観点から詳しく解説します。

「日本人同等以上の報酬」の解釈
法令上の基準
出入国管理及び難民認定法施行規則では、技人国ビザの基準として「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」と定められています。この基準の趣旨は、外国人労働者を低賃金で雇用することを防ぎ、日本人労働者の雇用や労働条件を守ることにあります。
したがって、同じ企業内で同様の業務に従事する日本人従業員よりも明らかに低い給与を外国人に設定することは、この基準に違反し不許可の理由となります。また、業界全体の水準と比較しても著しく低い給与設定は、審査で問題視される可能性があります。
一方で、「同等額以上」であることを立証する責任は申請側にあります。雇用契約書に記載された給与額が適正であることを、客観的な資料で説明する必要があります。
同等以上の具体的な意味
「同等額以上」の判断では、基本給だけでなく、賞与、各種手当、福利厚生なども含めた総合的な報酬で評価されます。月給が若干低くても、年2回の賞与が支給される場合は年収ベースで同等と認められることがあります。
ただし、業績連動型の賞与や、達成困難なノルマに基づく歩合給などは、確実に支払われる保証がないため、審査では考慮されにくい傾向があります。基本給と確実に支給される手当の合計額が、日本人従業員と比較して同等以上であることが重要です。
また、住宅手当、通勤手当、家族手当など、日本人従業員に支給される手当が外国人にも同じ条件で支給されることも、同等性の判断材料となります。外国人だけ特定の手当が支給されない場合は、差別的取り扱いとして問題視される可能性があります。
比較対象となる日本人従業員
比較対象となるのは、同じ企業内で同様の職務に従事し、同程度の学歴・経験を持つ日本人従業員です。例えば、大卒の新入社員として外国人を採用する場合、その年の日本人新卒社員の初任給と同等以上であることが求められます。
中途採用の場合は、同じ職種で同程度の経験年数を持つ日本人社員と比較されます。外国での職務経験が日本での経験と同等に評価される場合は、その経験年数に応じた給与設定が適切です。
企業内に比較対象となる日本人従業員がいない場合(例えば、初めて外国人を採用する小規模企業など)は、同業他社や業界全体の給与水準、厚生労働省の賃金構造基本統計調査などの公的統計データを参考に、適正性を判断します。
職種・地域・企業規模による給与レンジ
職種別の相場
技人国ビザで多い職種ごとに、おおよその給与相場を見ていきます。IT系技術職(システムエンジニア、プログラマー)の場合、新卒で年収300万円から350万円、経験3年程度で年収400万円から500万円、経験5年以上で年収500万円から700万円が一般的です。東京のIT企業では新卒でも年収350万円から400万円程度が標準的です。
営業職の場合、新卒で年収280万円から350万円、経験3年程度で年収350万円から450万円が目安となります。ただし、営業職は業種によって給与水準が大きく異なり、金融・保険業では高め、小売業では低めの傾向があります。
通訳・翻訳職の場合、言語の希少性や専門性によって幅がありますが、新卒で年収300万円から350万円、経験者で年収400万円から600万円程度が一般的です。英語・中国語など主要言語より、東南アジア言語や中東言語などの希少言語の方が高い傾向があります。
事務職(貿易事務、総務事務など)の場合、新卒で年収250万円から300万円、経験者で年収300万円から400万円が目安です。ただし、事務職は単純労働との区別が難しく、技人国ビザの審査自体が厳しくなるため、業務内容の専門性をしっかり説明する必要があります。
地域差の考慮
給与水準には明確な地域差が存在します。東京都心部と地方都市では、同じ職種でも10%から20%程度の差があることが一般的です。東京で年収350万円が標準的な職種でも、地方都市では年収300万円から320万円程度が相場となる場合があります。
地域差を考慮した給与設定は、合理的な範囲であれば審査で認められます。ただし、その地域の最低賃金を大幅に下回る設定や、同じ地域の同業他社と比較して著しく低い設定は問題となります。
地域差を説明する際には、ハローワークの求人情報、地域の賃金調査データ、同業他社の募集要項などを参考資料として提示すると効果的です。特に地方で外国人を採用する場合は、その地域における適正な給与水準であることを明確に説明する必要があります。
企業規模による違い
企業規模も給与水準に影響します。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、従業員1,000人以上の大企業と従業員10人から99人の中小企業では、初任給で10%から15%程度の差があります。
大企業では福利厚生も充実していることが多く、住宅手当、家族手当、退職金制度などが整備されています。これらを含めた総合的な報酬パッケージで評価すると、基本給の差以上の待遇差がある場合もあります。
中小企業が外国人を採用する場合、大企業と同水準の給与を支払う必要はありませんが、同規模の企業における相場と比較して同等以上であることが求められます。企業規模を考慮した適正な給与設定であることを、同業他社の事例や統計データで説明できるようにしておくことが重要です。
新卒採用と中途採用での給与設定
新卒の初任給設定
外国人留学生を新卒採用する場合、その年の日本人新卒社員の初任給と同額に設定するのが最も確実です。同じ4月入社の新卒社員として、国籍による給与差を設けないことで、同等性の立証が容易になります。
日本人新卒社員を採用していない企業の場合は、同業他社の新卒初任給や、厚生労働省が毎年公表する「賃金構造基本統計調査」における学歴別初任給のデータを参考にします。2024年の統計では、大卒の初任給平均は約23万円(年収換算で約280万円から300万円)となっています。
新卒採用では、職務経験がないため業績連動の給与設定は一般的ではありません。固定給で安定した収入を保証し、入社後の研修期間中も減額されないことを雇用契約書に明記することが望ましいです。
中途採用の経験加算
中途採用の場合、外国での職務経験をどう評価するかが重要なポイントとなります。同じ職種での経験であれば、日本での経験と同等に評価し、経験年数に応じた給与設定が適切です。
例えば、外国で3年間システムエンジニアとして勤務した経験がある場合、日本でも3年程度の経験者として扱い、新卒より高い給与を設定します。ただし、外国での職務内容が日本での業務と大きく異なる場合や、使用していた技術・言語が異なる場合は、経験の評価を調整する必要があります。
外国での職務経験を評価する際には、前職の在職証明書、職務経歴書、具体的なプロジェクト実績などを提示し、日本での業務に活かせる経験であることを説明します。単に年数だけでなく、実務能力を示すことで、給与水準の妥当性を立証できます。
昇給計画の考え方
技人国ビザの審査では、初年度の給与だけでなく、将来的な昇給の見通しも評価されます。日本人従業員と同様に、定期昇給や業績評価に基づく昇給の機会があることを示すことが重要です。
雇用契約書や就業規則に、昇給に関する規定を明記し、外国人従業員も日本人と同じ評価基準で昇給の対象となることを明確にします。また、過去の昇給実績(例えば、他の外国人社員の昇給例)がある場合は、参考資料として提示すると効果的です。
長期的なキャリアパスを示すことで、単なる低賃金労働力としてではなく、企業の戦力として育成する意図があることを示せます。これは審査官に対して、真摯な雇用関係であることを伝える重要な要素となります。
給与条件の効果的な説明方法
雇用契約書の記載
雇用契約書には、給与の内訳を明確に記載することが重要です。基本給、各種手当(住宅手当、通勤手当、家族手当など)、賞与の有無と支給時期、昇給の時期と方法などを具体的に記載します。
月額給与だけでなく、年収ベースでの金額も明記すると、審査官が総合的な報酬額を把握しやすくなります。例えば、「月額基本給25万円、年2回の賞与(各1.5ヶ月分)、年収見込み約350万円」といった記載です。
また、試用期間中の給与が本採用後と異なる場合は、その旨を明記します。試用期間中の減額は一定範囲内(10%から20%程度)であれば許容されますが、大幅な減額は問題視される可能性があります。
同等性の立証資料
給与の同等性を立証するための資料としては、以下のようなものが有効です。同じ企業内の日本人従業員の給与水準を示す資料(給与規程、賃金台帳の抜粋など)、同業他社の求人情報や募集要項、業界団体による給与調査データ、厚生労働省の賃金構造基本統計調査などです。
特に、企業内に比較対象となる日本人従業員がいる場合は、その従業員との給与比較表を作成し、同等以上であることを明示すると説得力があります。ただし、個人情報保護の観点から、個人が特定できる形での提出は避け、職種・経験年数・給与レンジといった形で整理します。
統計データを使用する場合は、職種、地域、企業規模、学歴などの条件が近いデータを選び、自社の給与設定がその範囲内またはそれ以上であることを示します。
低すぎる・高すぎる給与のリスク
給与が低すぎる場合の不許可リスクは明らかですが、逆に高すぎる給与設定にも注意が必要です。企業の売上規模や利益状況から見て、明らかに不相応な高額給与を設定している場合、雇用の実態に疑問が持たれる可能性があります。
例えば、年商2,000万円の小規模企業が、新卒の外国人に年収600万円を支払うといった設定は、経営的に不自然です。このような場合、実際には勤務実態がなく、ビザ取得のための偽装雇用ではないかと疑われるリスクがあります。
適正な給与水準は、企業の支払能力と整合性が取れていることも重要です。売上高、経常利益、従業員数などの企業規模に見合った給与設定であることを、決算書などの財務資料で裏付けることが望ましいです。
まとめ
技人国ビザにおける給与水準は、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上」という基準で審査されます。この同等性の判断では、基本給だけでなく賞与や各種手当を含めた総合的な報酬で評価され、同じ企業内の日本人従業員や業界全体の水準との比較が行われます。
職種別の給与相場は、IT系技術職で新卒年収300万円から350万円、営業職で280万円から350万円、通訳・翻訳職で300万円から350万円程度が目安となります。ただし、地域差や企業規模による違いもあり、東京と地方では10%から20%程度の差があることも考慮する必要があります。
新卒採用では日本人新卒社員と同額の初任給設定が確実で、中途採用では外国での職務経験を適切に評価した給与設定が求められます。また、将来的な昇給計画を示すことで、長期的な雇用関係であることを立証できます。
給与条件を効果的に説明するには、雇用契約書への詳細な記載、同等性を示す客観的な資料の提出、企業の支払能力との整合性が重要です。低すぎる給与は不許可のリスクとなり、高すぎる給与は雇用の実態に疑問を持たれる可能性があります。
技人国ビザの給与設定について不安がある場合は、入管業務に精通した行政書士に相談することをお勧めします。適切なアドバイスにより、審査をスムーズに通過できる給与条件の設定と説明が可能となります。
今回のコラムは皆さんのお役に立ちましたでしょうか。技人国ビザの給与水準について、ご質問やご意見がございましたら、お気軽にお問合せフォームからお聞かせください。皆さんからのフィードバックを心よりお待ちしております。
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