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制度・動向

2025/9/5

外国人材の脱退一時金~帰国前の確認と企業の対応~

皆さん、こんにちは。未来扶桑行政書士事務所 行政書士の樋口裕昭です。

外国人材を雇用する企業では、帰国を予定している社員から「日本で払った年金は戻ってきますか」「脱退一時金は、どのように手続きすればよいですか」と質問されることがあるかもしれません。

日本の年金制度に一定期間加入した外国人の方が、日本に住所を有しなくなった場合、所定の条件を満たせば「脱退一時金」を請求できます。ただし、納付した保険料が全額返ってくる制度ではありません。また、受け取ることで、それまでの日本の年金加入期間が失われるという重要な注意点があります。

そのため、企業が社員に説明する際には、請求方法だけでなく、将来の再来日や年金受給への影響も伝えることが大切です。

今回は、脱退一時金を中心に、外国人材本人と企業の人事担当者が、帰国前に確認しておきたい事項を整理します。

外国人材も、加入条件に応じて日本の社会保険に加入します

日本で働く外国人材も、原則として日本人と同じように、勤務先や働き方に応じて社会保険に加入します。「数年後に帰国する予定だから」「母国でも年金を払っているから」という理由だけで、日本の制度への加入を選択できるわけではありません。

健康保険・厚生年金保険については、適用事業所で働き、週の所定労働時間と月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上である場合、原則として加入対象となります。「週30時間以上」という数字だけで一律に判断する仕組みではありません。

4分の3基準に満たない場合でも、特定適用事業所などで働く短時間労働者は、週の所定労働時間が20時間以上、学生ではないことなど、所定の条件を満たすと加入対象になります。雇用期間についても確認が必要です。

なお、短時間労働者の加入要件のうち、所定内賃金が月額8.8万円以上という賃金要件は、2026年10月1日に撤廃されました。企業規模などの条件は引き続き確認する必要があるため、給与額だけで加入対象外と判断しないよう注意してください。

最新の加入条件は、日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」をご確認ください。

勤務先の厚生年金に加入していない方については、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の方は、原則として国民年金の対象です。ただし、厚生年金加入者に扶養される配偶者として第3号被保険者となる場合など、区分によって扱いが異なります。

国民健康保険についても、勤務先の健康保険への加入や被扶養者としての認定の有無、住所、在留状況などを踏まえ、市区町村で確認しましょう。

脱退一時金は、年金保険料の全額返金ではありません

脱退一時金は、日本国籍を持たない方が、日本の公的年金の被保険者資格を失い、日本に住所を有しなくなった場合に、一定の条件で請求できる制度です。

主な確認事項は、日本国籍を有していないこと、公的年金の被保険者ではないこと、日本に住所を有していないこと、老齢年金の受給資格期間を満たしていないこと、障害年金などの受給権を有したことがないことです。

加入期間については、国民年金と厚生年金で確認方法が異なります。国民年金では、保険料納付済期間などを所定の方法で計算した月数が6月以上、厚生年金では被保険者期間が6月以上必要です。

請求期限は、原則として日本に住所を有しなくなった日から2年以内です。その日に年金の被保険者であった場合には、被保険者資格を最後に喪失した日から2年以内となります。「退職した日から必ず2年」と覚えてしまうと、実際の期限とずれるおそれがあります。

退職しても日本に住み続ける場合や、別の勤務先で働く場合には、帰国する方と同じ扱いにはなりません。まずは、退職後の居住予定と年金の加入状況を確認してください。

受給条件や請求書は、日本年金機構「脱退一時金の制度」で確認できます。

支給額の計算は、国民年金と厚生年金で異なります

脱退一時金の金額は、納付した保険料に一定の割合を掛ければ求められるものではありません。「払った保険料の6割から8割が戻る」といった目安で説明すると、本人の期待と実際の支給額が大きく異なる可能性があります。

国民年金は、最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額と、保険料納付済期間などに応じて計算します。

厚生年金は、被保険者期間の平均標準報酬額と、加入月数などに対応する支給率によって計算します。平均標準報酬額には、対象期間に応じて標準賞与額も反映されるため、月給だけから正確な金額を判断することはできません。

2021年4月以降に対象となる保険料納付済期間や被保険者期間がある場合、支給額の計算に用いる月数の上限は60月、つまり5年です。それ以前の期間のみの場合には、上限36月の扱いがあるため、加入時期の確認が必要です。

また、上限60月というのは「給与の60か月分が支払われる」という意味ではありません。制度ごとの計算に用いる月数の上限です。

企業が概算を案内する場合には、年金記録と公式の計算方法を確認し、支給決定額を保証する説明にならないようにしましょう。

厚生年金の脱退一時金には、源泉徴収があります

非居住者に支払われる厚生年金の脱退一時金は、原則として支給時に20.42%の所得税・復興特別所得税が源泉徴収されます。そのため、計算上の支給額と、実際に口座へ振り込まれる金額は異なります。

一方、国民年金の脱退一時金には、この源泉徴収はありません。両者を同じ説明で案内しないことが大切です。

厚生年金の脱退一時金について源泉徴収された税金は、税務署で所定の還付手続きを行うことができます。帰国後の申告に備え、日本国内の納税管理人の選任や届出が必要となる場合があります。

脱退一時金の支給決定通知書は、税務手続きでも重要な資料です。受け取った後に紛失しないよう、本人に保管を案内しましょう。

年金の請求と税金の還付は別の手続きです。税務上の判断や申告については、税務署または税理士に確認してください。

請求前に、将来の年金受給への影響を確認しましょう

脱退一時金で最も注意したいのは、受給すると、請求前の日本の年金加入期間がすべて年金加入期間ではなくなることです。

例えば、日本で7年間加入した方が、上限60月で計算された脱退一時金を受け取る場合を考えてみましょう。これは説明のための仮定ですが、失われるのは支給額の計算に使われた5年間だけではありません。請求前の7年間全体が、将来の年金受給に使えなくなります。

今後日本で再び働く予定がある方は、加入期間を残しておくことで、将来の老齢年金の受給資格につながる可能性があります。

また、年金は老後だけの保障ではありません。加入中の病気やけがによる障害、死亡した場合の遺族への保障も含む制度です。「帰国するから、払った分を取り戻す」という考え方だけで判断しないことが大切です。

企業側は請求を一律に勧めるのではなく、再来日の予定、加入記録、将来の年金受給の可能性を本人が確認できるよう支援しましょう。

社会保障協定国でも、必ず加入期間を通算できるわけではありません

社会保障協定には、保険料の二重負担を防ぐ仕組みと、年金の受給資格を得やすくするために加入期間を通算する仕組みがあります。ただし、協定ごとに対象となる制度と内容が異なります。

英国、韓国、中国、イタリアとの協定には、年金加入期間の通算規定がありません。「母国と日本に協定があるから、日本の加入期間を必ず合算できる」とは限らないのです。

通算できる場合も、日本と相手国の年金が一つになるわけではありません。それぞれの国の制度に基づき、受給資格や支給額が判断されます。

また、協定国の国籍を持っているだけで、日本の年金への加入が自動的に免除されるわけでもありません。派遣元・派遣先の関係、派遣期間、適用証明書などの条件を確認する必要があります。

脱退一時金を受け取ると、その対象となった日本の加入期間を通算に使えなくなるため、請求前に比較することが重要です。

国別の取扱いは、日本年金機構「社会保障協定」をご確認ください。

海外にいる家族の健康保険の扶養にも注意が必要です

外国人社員からは、年金と併せて「母国にいる家族を健康保険の扶養に入れられますか」と質問されることも考えられます。

健康保険の被扶養者は、原則として日本国内に住所を有することが必要です。母国に住む家族へ生活費を送金しているという理由だけでは、被扶養者として認定されません。

海外留学や、海外赴任する被保険者への同行など、日本国内に生活の基礎があると認められる一定の場合には、国内居住要件の例外があります。ただし、例外に該当することを示す資料に加え、続柄や収入、生計維持関係なども確認されます。

税法上の扶養親族と、健康保険の被扶養者も異なる制度です。「税金の扶養に入っているので、健康保険でも認められる」と判断しないようにしましょう。

具体的な認定については、加入している健康保険の保険者に確認することが必要です。

帰国前に、本人と企業で準備すること

帰国前には、まず本人の年金記録、基礎年金番号、加入期間を確認し、今後の再来日や就労の予定を整理しましょう。そのうえで、脱退一時金を請求するか、加入期間を残すかを本人が判断できるようにします。

請求する場合には、最新の請求書を使い、パスポート、日本に住所を有しなくなったことを確認できる資料、本人名義の受取口座、基礎年金番号が分かる資料などを準備します。

必要書類は個別の状況によって異なります。出国印のあるページや住民票の除票が、すべての方に同じ形で必要になるとは限りません。公式の請求書にある案内を確認してください。

再入国許可やみなし再入国許可で出国する場合は、出国しただけで請求条件を満たすと考えず、転出届の有無や日本の住所の扱いを含めて年金事務所に確認しましょう。

企業では、資格喪失の届出、本人への年金関係資料の案内、帰国後の連絡方法の確認などを進めます。税務手続きが必要な場合には、帰国前に相談先につなぐことも有効です。

本人が理解しやすい言語の公式資料を使い、請求期限、加入期間が失われること、源泉徴収の有無を一緒に確認すると、認識の行き違いを減らせます。

企業の役割は、本人が判断できる情報を届けることです

脱退一時金は、帰国時に必ず請求するものではありません。本人の加入記録や将来の生活設計によって、適切な判断は異なります。

企業にとって大切なのは、受給を勧めることそのものではなく、本人が必要な情報を理解し、相談できる環境を整えることです。帰国直前になって説明するより、退職や帰国の予定が分かった段階で確認を始めると、準備を進めやすくなります。

年金の受給条件は年金事務所、健康保険の扶養認定は保険者、社会保険の手続きは社会保険労務士、税務は税務署・税理士に相談しましょう。在留資格や帰国・再入国に関する手続きは、行政書士が支援する分野です。

未来扶桑行政書士事務所では、外国人材の在留手続きや企業の受入れに関するご相談に対応しています。社会保険・税務の専門的な確認が必要な場合には、適切な相談先との連携を検討し、本人と企業が安心して準備を進められるよう支援します。


外国人材の在留手続きや帰国前の準備に関するご相談、この記事へのご感想は、お問合せフォームからお寄せください。

※本記事は2026年10月5日時点の公表情報に基づいています。請求・加入手続きに当たっては、最新の制度と個別の適用条件をご確認ください。

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