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就労系ビザ

2025/10/10

技能実習から特定技能への移行〜待遇設計が成功の鍵

皆さん、こんにちは。未来扶桑行政書士事務所 行政書士の樋口裕昭です。

技能実習生の特定技能への移行を検討される企業から、「給与をどれくらい上げれば良いのか」「技能実習時代と同じ待遇では問題があるのか」といったご質問をいただくことがあります。また、「日本人従業員と同等以上の報酬とは具体的にどう判断すれば良いのか」「雇用契約書をどのように変更すべきか」とお悩みの企業担当者の方も多いのではないでしょうか。

技能実習から特定技能への移行において、待遇設計は単なる法的要件を満たすためだけのものではありません。適切な待遇設計により、優秀な人材の定着と企業の長期的な人材戦略の成功を実現することができます。

今回は、技能実習から特定技能への移行における待遇設計のポイントについて、実務的な視点からお伝えいたします。

特定技能制度における「同等報酬要件」の正しい理解

法律で求められる基本要件

特定技能外国人に対しては、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」が法律で義務付けられています。この要件は、外国人であることを理由とした不当な低賃金を防止するための重要な規定です。

「同等報酬」の判断基準

同等報酬の判断は、単純に金額だけを比較するのではなく、以下の要素を総合的に考慮して行われることが一般的です:

比較対象となる日本人従業員

  • 同種の業務に従事する日本人

  • 同程度の経験年数を持つ日本人

  • 同じ地域で働く同業種の日本人

報酬に含まれる要素

  • 基本給

  • 各種手当(住宅手当、通勤手当、家族手当など)

  • 賞与・一時金

  • 残業代

  • その他の金銭的待遇

よくある誤解と注意点

「技能実習生は最低賃金で雇用していたから、特定技能でも最低賃金で良い」という考え方は誤りです。技能実習制度と特定技能制度では制度の目的が異なり、特定技能では「即戦力」としての位置づけが明確になっています。

また、「外国人だから日本人より安く雇える」という発想は、法律違反となるだけでなく、優秀な人材を他社に流出させる原因となります。

技能実習時代からの適切な待遇改善

技能実習と特定技能の位置づけの違い

技能実習の位置づけ

  • 国際協力・技術移転を目的とした「実習」

  • 基本的に「学ぶ立場」

  • 最低賃金でも法的には問題ない場合が多い

特定技能の位置づけ

  • 人手不足対応のための「即戦力労働者」

  • 3年以上の実務経験を持つ熟練者

  • 日本人と同等の労働力として期待される

現実的な給与水準の考え方

技能実習2号を修了した外国人材は、既に3年間の日本での就労経験があり、業務に精通した即戦力です。この経験と能力を適切に評価した給与設定が重要となります。

実務的な給与設定の考え方

多くの企業では、技能実習時代よりも待遇を改善しているケースが見られます。ただし、具体的な金額は以下の要素を考慮して個別に判断する必要があります:

  • 業種・職種による地域の相場

  • 企業の規模と財務状況

  • 外国人材の技能レベルと貢献度

  • 同じ企業の日本人従業員の給与水準

給与水準の確認方法

適切な給与水準を判断するために、以下の情報源を活用することをおすすめいたします:

  • ハローワークの求人情報での同職種の給与

  • 厚生労働省の賃金構造基本統計調査

  • 業界団体が公表している賃金データ

  • 同業他社の求人広告の給与額

段階的な昇給計画の提示

特定技能1号の在留期間は最長5年です。この期間を見据えた段階的な昇給計画を示すことで、外国人材のモチベーション向上と長期定着を促進できます。

昇給計画の例

  • 1年目:技能実習からの移行時に基本給を引き上げ

  • 2年目:勤務評価に基づく昇給

  • 3年目以降:技能習熟度や貢献度に応じた昇給

このような計画を雇用契約時に明示することで、外国人材に明確なキャリアパスを提供できます。

日本人従業員との適切な比較方法

比較対象の選定が重要

「同等報酬」を判断するための比較対象となる日本人従業員の選定は、申請の成否に直結する重要なポイントです。

適切な比較対象

  • 同じ部署で同じ業務に従事している日本人

  • 採用時期が近く、経験年数が同程度の日本人

  • 同じ雇用形態(正社員、契約社員など)の日本人

不適切な比較対象

  • 管理職や幹部候補生

  • 極端に経験年数が長いベテラン社員

  • 雇用形態が異なる従業員

社内に比較対象がいない場合の対応

中小企業では、適切な比較対象となる日本人従業員が社内にいないケースもあります。この場合は、以下のような方法で同等報酬の妥当性を説明することができます:

地域・業界の相場データの活用

  • ハローワークの求人情報

  • 業界団体の賃金調査データ

  • 厚生労働省の賃金構造基本統計調査

求人時の提示給与との整合性

  • 同種の業務で日本人を募集する場合の給与

  • 実際に掲載した求人広告の給与額

これらのデータを用いて、設定した給与が市場相場と整合していることを示すことが効果的です。

雇用契約書の適切な見直しポイント

技能実習から特定技能への契約変更

技能実習から特定技能への移行に伴い、雇用契約書を新たに作成する必要があります。この際、以下の点に注意が必要です。

明確に変更すべき項目

在留資格の記載

  • 旧:技能実習2号(〇〇職種)

  • 新:特定技能1号(〇〇分野)

雇用期間

  • 旧:技能実習計画に基づく期間

  • 新:在留期間に応じた期間(通常1年または3年)

業務内容

  • 旧:技能実習計画に記載された作業

  • 新:特定技能の分野別運用方針に適合した業務

報酬額

  • 同等報酬要件を満たす金額への変更

  • 各種手当の明記

契約書作成時の実務的なポイント

日本語と母国語の両方で作成 外国人材が内容を正確に理解できるよう、日本語版に加えて母国語版も準備することをおすすめいたします。両者の内容が一致していることを確認し、いずれも署名・押印を取得します。

具体的で明確な記載 曖昧な表現は避け、以下の項目を具体的に記載することが重要です:

  • 基本給の額(月額または時給)

  • 各種手当の名称と金額

  • 賞与の有無と支給基準

  • 残業代の計算方法

  • 昇給の時期と基準

  • 休日・休暇の日数と取得方法

労働条件通知書との整合性 労働基準法に基づく労働条件通知書と雇用契約書の内容が一致していることを確認する必要があります。矛盾がある場合、申請時に問題となる可能性があります。

福利厚生の充実による魅力向上

金銭報酬以外の待遇の重要性

給与だけでなく、福利厚生の充実も外国人材の定着に大きく影響します。特定技能外国人に対して効果的な福利厚生には以下のようなものがあります。

住宅関連の支援

  • 社宅・寮の提供

  • 家賃補助制度

  • 敷金・礼金の貸付または補助

  • 生活用品の初期提供

帰国関連の支援

  • 年1回程度の帰国旅費の補助

  • 一時帰国時の有給休暇付与

  • オンライン通話費用の補助

スキルアップ支援

  • 日本語教育の費用負担

  • 技能検定受験費用の補助

  • 資格取得奨励金の支給

生活サポート

  • 通訳サービスの提供

  • 多言語での相談窓口設置

  • 母国の食材購入支援

これらの福利厚生は、直接的な金銭報酬の増加を伴わなくても、外国人材にとって大きな価値を持ちます。

中小企業でも実現可能な工夫

「大企業のような充実した福利厚生は無理」とお考えの中小企業の方も多いかもしれません。しかし、以下のような工夫により、コストを抑えながら効果的な福利厚生を提供することが可能です:

地域資源の活用

  • 自治体の外国人支援サービスの紹介

  • 地域の日本語教室の情報提供

  • 近隣企業との共同での福利厚生施設利用

制度設計の工夫

  • 貸付制度(帰国時に返済)

  • 条件付き支給(勤続年数に応じて)

  • 現物支給(中古家電の提供など)

申請書類での報酬説明の適切な方法

同等報酬の説明が審査のポイント

特定技能の在留資格申請では、「日本人と同等以上の報酬」であることを申請書類で明確に説明する必要があります。この説明が不十分な場合、追加資料の提出を求められたり、不許可となったりする可能性があります。

効果的な説明方法

比較対象の明確化

  • 比較対象となる日本人従業員の具体的な情報

  • 業務内容の類似性の説明

  • 経験年数や技能レベルの比較

報酬の詳細な内訳

  • 基本給と各種手当の明細

  • 年間の賞与見込み額

  • 想定される残業代

  • 福利厚生の金銭的価値

市場相場との比較

  • 地域の同業種・同職種の賃金データ

  • ハローワーク求人の給与水準

  • 業界平均との比較

説明資料作成時の注意点

客観的なデータの活用 主観的な説明ではなく、客観的なデータに基づく説明が説得力を持ちます。公的機関の統計データや業界団体の調査結果などを適切に引用することが効果的です。

矛盾のない一貫した説明 複数の書類で報酬に関する記載がある場合、すべての書類で整合性が取れていることを確認する必要があります。雇用契約書、労働条件通知書、申請書類の記載が一致していることが重要です。

行政書士・社労士との連携による総合的サポート

待遇設計における専門家の役割

技能実習から特定技能への移行における待遇設計は、在留資格申請(行政書士の専門領域)と労務管理(社会保険労務士の専門領域)の両方にまたがる複雑な課題です。

行政書士がサポートできる内容

同等報酬要件の適合性判断

  • 設定した給与が申請要件を満たすかの評価

  • 比較対象の適切性の検討

  • 申請上のリスク分析

雇用契約書の作成・レビュー

  • 特定技能に適した契約書の作成

  • 既存契約書の問題点の指摘

  • 母国語版契約書の整備支援

申請書類での報酬説明の最適化

  • 説得力のある報酬説明資料の作成

  • 必要な疎明資料の選定と準備

  • 追加説明が必要な場合の対応

社会保険労務士との連携

待遇設計全体の最適化のためには、社会保険労務士との連携も重要です。社労士は以下のような専門的サポートを提供できます:

  • 就業規則の整備・変更

  • 労働条件通知書の適切な作成

  • 社会保険・雇用保険の手続き

  • 給与計算システムの整備

  • 労働時間管理の適正化

ワンストップでの包括的支援

行政書士と社会保険労務士が連携することで、企業は以下のようなメリットを得ることができます:

  • 在留資格と労務管理の両面からの一貫したアドバイス

  • 複数の専門家を個別に探す手間の削減

  • 専門家間の情報共有による効率的な手続き

  • トータルでの費用最適化

当事務所では、信頼できる社会保険労務士との連携体制を構築しており、企業の皆さまに包括的なサポートを提供できる体制を整えています。

専門家サポートを活用すべきタイミング

以下のような状況では、専門家のサポートを早期に活用することをおすすめいたします:

申請前の準備段階

  • 待遇設計の方針を決定する段階

  • 雇用契約書を作成する段階

  • 同等報酬の判断に不安がある場合

申請書類の作成段階

  • 報酬説明の方法に迷う場合

  • 比較対象の選定に困っている場合

  • 過去に不許可経験がある場合

継続雇用の計画段階

  • 複数の技能実習生の移行を予定している場合

  • 長期的な外国人材活用戦略を検討している場合

  • 特定技能2号への移行も視野に入れている場合

まとめ

技能実習から特定技能への移行における待遇設計は、単なる法的要件を満たすためだけのものではありません。適切な待遇により、優秀な外国人材の定着と企業の長期的な成長を実現することができます。

成功のポイントは以下の5点です:

  1. 同等報酬要件の正しい理解と適用

  2. 技能実習からの適切な待遇改善

  3. 日本人従業員との公平な比較

  4. 明確で詳細な雇用契約書の作成

  5. 金銭報酬と福利厚生のバランス

特に、待遇設計は在留資格申請の成否に直結するだけでなく、外国人材のモチベーションと定着率にも大きく影響する重要な要素です。行政書士や社会保険労務士などの専門家と連携し、法的要件を満たしながら企業と外国人材の双方にとって最適な待遇を設計していただければと思います。


この記事についてご質問やご感想がございましたら、お気軽にお問い合わせフォームからお聞かせください。皆さんからのご意見は、今後のコンテンツ作りの参考にさせていただいております。特に「うちの会社の給与設定は適切だろうか」「雇用契約書のレビューをお願いしたい」といったご相談も承っております。

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