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制度・動向
2026/7/22
不法残留者、なぜ今も6万人超か 〜2年連続減少の内訳〜
皆さん、こんにちは。未来扶桑行政書士事務所 行政書士の樋口裕昭です。
「日本にいる不法残留者は今どれくらいいるのか」と聞かれたら、皆さんはどれくらいの数を思い浮かべるでしょうか。数万人という数字だけを見ると多いと感じるかもしれませんが、実はこの数字、長期的に見ると着実に減少を続けています。ニュースで「不法滞在ゼロプラン」といった言葉を目にする機会も増えていますが、実際の統計データを見ながら、何がどう変化しているのかを具体的に押さえておくことは、外国人採用に関わる方にとっても、日本の在留管理の全体像を知りたい方にとっても、意味のあることだと思います。今回は、出入国在留管理庁が公表している最新の統計をもとに、不法残留者数の実態と、なぜ減少が続いているのかをお伝えします。

最新統計は68,488人、2年連続の減少
出入国在留管理庁が2026年3月27日に公表した最新統計によると、令和8年1月1日現在の不法残留者数は68,488人でした。令和7年1月1日現在の74,863人と比べると6,375人、率にして8.5%の減少です。令和6年に一時79,113人まで増加した後、令和7年・令和8年と2年連続で減少に転じています。直近5年間の推移は下の表のとおりです(出典:出入国在留管理庁「本邦における不法残留者数について(令和8年1月1日現在)」2026年3月27日公表、2026年7月3日確認)。
年(各年1月1日現在) | 不法残留者数(人) | 前年比 |
令和4年(2022年) | 66,759 | ― |
令和5年(2023年) | 70,491 | +5.6% |
令和6年(2024年) | 79,113 | +12.2% |
令和7年(2025年) | 74,863 | ▲5.4% |
令和8年(2026年) | 68,488 | ▲8.5% |
令和6年の一時的な増加は、コロナ禍で落ち込んでいた訪日外国人数の回復により、短期滞在ビザでの入国者数そのものが増えたことが影響していると考えられます。その後2年連続で減少に転じているのは、後述するとおり取り締まりと解消の動きが新規発生を上回っているためです。
国籍別・在留資格別の内訳
令和7年から令和8年にかけての変化を、国籍別・在留資格別にそれぞれ表にまとめました。
国籍・地域別(令和7年→令和8年)
国籍・地域 | 令和7年(人) | 令和8年(人) | 増減率 |
ベトナム | 14,296 | 11,601 | ▲18.9% |
タイ | 11,337 | 10,907 | ▲3.8% |
韓国 | 10,600 | 10,020 | ▲5.5% |
中国 | 6,565 | 5,827 | ▲11.2% |
フィリピン | 4,684 | 4,393 | ▲6.2% |
インドネシア | 4,631 | 4,248 | ▲8.3% |
台湾 | 2,983 | 2,601 | ▲12.8% |
スリランカ | 2,043 | 2,091 | +2.3% |
トルコ | 1,372 | 1,228 | ▲10.5% |
カンボジア | 1,380 | 1,044 | ▲24.3% |
上位10か国・地域のうち、増加しているのはスリランカのみで、それ以外はすべて減少しています。ベトナムは依然として最多ですが、減少率でも最大の18.9%減となっており、上位国が全体の減少をけん引している構図です。ベトナムは在留外国人数そのものが全国籍の中で最も多い国でもあり、技能実習や特定技能といった正規の在留資格を通じた受け入れルートが拡大してきたことも、不法残留に至らずに済むケースを増やしている一因と考えられます。一方でスリランカだけが増加している点は、母数となる在留者数の変化や、個別の在留資格の運用状況が影響している可能性があり、今後の動向を注視する必要がありそうです。
在留資格別(令和7年→令和8年)
在留資格 | 令和7年(人) | 令和8年(人) | 増減率 |
短期滞在 | 45,734 | 41,607 | ▲9.0% |
技能実習 | 11,504 | 9,323 | ▲19.0% |
特定活動 | 7,569 | 7,306 | ▲3.5% |
留学 | 2,245 | 2,173 | ▲3.2% |
日本人の配偶者等 | 1,750 | 1,724 | ▲1.5% |
全体の6割を占める短期滞在が最も大きな減少幅を占めており、技能実習も約2割減となっています。もともとの母数が大きい在留資格が減ることで、全体の数字も押し下げられている形です。技能実習の減少幅が大きいのは、令和6年に一時的に増えていた分の反動という側面に加えて、技能実習制度から新しい育成就労制度への移行が進み、実習終了後の在留の受け皿が整備されつつあることも影響していると見られます(出典:同上)。
2020年、そして統計上最多だった1993年との比較
もう少し長い時間軸で見てみます。令和2年(2020年)1月1日現在の不法残留者数は82,892人でした。令和8年の68,488人と比べると14,404人、率にして17.4%の減少です。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大が始まった年ですが、水際対策が本格化する前の時点ですでに8万人台まで減少していました。さらにさかのぼると、出入国在留管理庁の公表資料によれば、不法残留者数が統計上最も多かったのは1993年(平成5年)ごろで、約29万8,646人に達していました。そこから増減を繰り返しながら、現在は当時の4分の1以下の水準まで下がっています。バブル期からその崩壊直後にかけて、就労目的で入国し在留期限を超えて滞在する外国人が急増した時代の名残が、この統計上のピークに表れているといえます。
なぜ減少が続いているのか
減少の背景を数字で見ると、興味深い構造が浮かび上がります。令和8年1月1日現在、令和7年1月1日現在から継続して不法残留している人は58,740人、令和7年以降に新たに判明した人は9,748人です。一方で、令和7年時点では不法残留状態だったものの、令和8年までに送還や出国命令、在留特別許可などによって解消した人は16,123人にのぼります。つまり、新たに発生する不法残留者よりも、取り締まりや送還によって解消される数の方が多いために、全体としては純減が続いているという構造です。
取り締まり強化と送還促進政策が背景にあると言われていますが、新規発生の抑制と既存の不法残留者の解消の両方が効いていると考えられます。
不法残留者数がゼロにならない理由
それでも7万人近い数字がなくならないのはなぜでしょうか。表からもわかるとおり、短期滞在で入国してそのまま出国せずに滞在し続けるケースが全体の6割を占めています。観光や短期の商用目的で入国した人が、何らかの事情で帰国せずにそのまま日本に残ってしまうというパターンが、依然として最も多い経路なのです。技能実習や特定活動のように、在留期間の管理が複雑な在留資格でも一定数が発生しており、うっかり在留期限を過ぎてしまうケースも含まれていると考えられます。
不法残留者数の推移で検索する方の多くは、日本の外国人受け入れ政策が実際どう機能しているのかに関心を持っていると思いますが、「短期滞在からの残留が最多」という構造は、水際対策や入国審査の厳格化だけでは根本解決が難しいことを示しています。入国後の生活・就労状況をどう把握し、必要な支援や指導につなげていくかという、入国後の管理の質が問われている分野です。
短期滞在からの不法残留を防ぐ新たな仕組み
短期滞在からの残留が全体の6割を占めるという構造を踏まえ、政府は入国前の段階でリスクの高い渡航者をふるいにかける新しい制度の導入を進めています。それが「JESTA(電子渡航認証制度)」です。JESTAは、アメリカのESTAを参考にした仕組みで、ビザ免除の対象となっている国・地域から短期滞在で訪日する外国人に対し、渡航前にオンラインで個人情報や渡航目的を申請し、事前に認証を受けることを義務づけるものです。認証を得ていない場合は、航空機などへの搭乗自体が拒否される仕組みが想定されています。
2026年3月10日にJESTA創設を盛り込んだ入管法改正案が閣議決定され、同年4月28日には衆議院を通過しました。運用開始は2028年度中を目指すとされており、現時点ではまだ施行されていません。出入国在留管理庁が公表している「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」の中でも、JESTAは中心的な施策のひとつに位置づけられています。
短期滞在からの不法残留は、入国時点では正規の手続きを経ているため、これまでは入国後に発覚してから対応するほかありませんでした。JESTAが導入されれば、過去の退去強制歴や違反歴などの情報を渡航前の段階で確認できるようになり、不法残留のリスクが高いと判断された渡航者については、日本に到着する前に搭乗を止めることが可能になります。事後対応型だった入国管理が、事前審査型へと転換する大きな制度変更といえます。
JESTAの対象となるのは、ビザ免除74か国・地域からの渡航者です。この記事で取り上げた不法残留者数上位10か国・地域と照らし合わせると、タイ・韓国・インドネシア・台湾・トルコの5か国がビザ免除の対象にあたり、令和8年の不法残留者数を合計すると29,004人、全体の約42.4%を占めます。JESTAが導入されれば、この4割超の層に対して渡航前の事前スクリーニングが新たに加わることになります。
一方、最多のベトナムをはじめ、中国・フィリピン・スリランカ・カンボジアはビザ免除の対象になっていません。「JESTAの対象にならない国は審査が甘いのでは」と受け取られがちですが、実際はその逆です。これらの国・地域はもともとビザ免除の対象外とされているため、渡航前に在外公館で個別に査証を取得する手続きがすでに必須となっており、JESTAが目指す「渡航前の事前審査」に相当する仕組みが以前から機能しています。ビザ免除国はこれまで入国時の対面審査に頼る部分が大きかったため、その入口をJESTAで補うという位置づけになるわけです。
企業や在留外国人本人にとっても無関係ではありません。海外から家族を短期で招く場合や、取引先の担当者を短期滞在で受け入れる場合など、渡航前の準備にJESTAの認証取得というステップが加わる可能性があり、今後の制度化の動きは注視しておく価値があります。
企業にとっての意味
不法残留者を雇用してしまった場合、雇用主にも「不法就労助長罪」が成立する可能性があります。本人が不法残留であることを知らなかったとしても、在留カードの確認を怠っていたと判断されれば、企業側が処罰の対象になり得る制度です。統計上の数字が減少傾向にあるとはいえ、採用時に在留カードの有効期限や記載内容を確認するという基本動作の重要性は変わりません。数字が減っているからといって油断せず、一人ひとりの在留状況を丁寧に確認する姿勢が求められます。
特に短期滞在からそのまま就労してしまうケースは、在留カードそのものが交付されていない場合もあり、パスポートに押された上陸許可のスタンプや在留期間の記載を確認する必要があります。在留カードを持っていないことをもって「在留資格がある」と誤解してしまう採用担当者も見受けられますが、短期滞在の在留資格では原則として就労は認められていません。外国人採用 在留カード確認方法について改めて社内でルール化しておくことが、結果的に不法就労助長罪のリスクを避ける一番の近道になります。
まとめ
不法残留者数は、1993年の約29万8,646人をピークに増減を繰り返しながら長期的には減少を続けており、令和8年1月1日現在は68,488人と2年連続の減少になりました。2020年からの6年間だけを見ても17.4%の減少です。新規発生よりも解消の方が多いという構造が、この減少を支えています。とはいえ短期滞在からの残留が依然として最多を占めている現状を踏まえると、制度の周知や在留管理の徹底、そしてJESTAのような入口対策は今後も欠かせない課題だといえます。
今回のコラムの内容はいかがでしたでしょうか。皆さんの感想やご意見を、お問合せフォームからお気軽にお聞かせいただけますと嬉しいです。
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