60歳から始める遺言書作成のススメ〜早すぎることはない理由〜
「遺言書なんて、まだ早すぎるのでは?」
私たち60代の多くが、こんな風に考えてしまいますよね。確かに60歳といえば、まだまだ元気で、これから人生の第二幕を楽しもうという年代です。私自身も60代を迎えるまで、遺言書なんて「まだ先のこと」だと思っていました。
しかし、最近体験した親の介護、そして親との別れを通じて、私の考えは大きく変わりました。幸い、我が家はそれほど大した資産もなかったおかげで、相続は円満に完了しましたが、だんだん意思がはっきりしなくなっていく介護期や、亡くなってから処分に困るほどの家財道具の多さなどを目の当たりにしたとき、自分の死後のことに思わず考えを巡らせていました。
これまで「まだ先のこと」と感じていたことが、親の姿や終焉を見たとき、急に身近で現実的な問題として迫ってきたのです。私たち60代は、まさに親との別れを体験し始める世代であり、だからこそリアルに自分の将来を考えられる世代なのだと実感しました。
最近同世代の仲間と集まると、体調や通院の話題が自然と出るようになりましたし、子育てもひと段落し、仕事も第一線から少しずつ身を引き始める時期でもあります。そんな人生の節目だからこそ、行政書士として法律を学ぶ中で確信したのは、60歳こそが遺言書作成を始める最適なタイミングだということです。

なぜならば、さらに私自身が親の介護と別れを通じて感じたのは、判断能力がしっかりしているうちに、家族に負担をかけない準備をしておくことの大切さでした。
この記事では、同世代の仲間として、そして専門家として、なぜ60歳から遺言書作成に取り組むべきなのか、その理由と具体的なメリットについてお話しさせていただきます。「早すぎる」という皆さんの心配を、一緒に考えながら解決していきましょう。
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- なぜ「60歳」が遺言書作成の最適なタイミングなのか
- 1. 人生の転換点としての60歳
- 2. 統計が示す現実
- 3. 財産形成のピーク期
- 60歳から遺言書を作成する5つのメリット
- メリット1:時間をかけて慎重に検討できる
- メリット2:家族関係の整理ができる
- メリット3:税制改正や法改正への対応余裕
- メリット4:認知症対策としての効果
- メリット5:相続人の負担軽減
- 「まだ早い」という5つの誤解を一緒に解消しましょう
- 誤解1:「遺言書は死ぬ直前に作るもの」
- 誤解2:「まだ財産が確定していない」
- 誤解3:「家族に不吉な印象を与える」
- 誤解4:「健康なうちは必要ない」
- 誤解5:「費用がもったいない」
- 60歳代での遺言書作成のポイント
- 1. 段階的なアプローチを採用
- 2. 家族とのコミュニケーションを重視
- 3. 専門家との長期的な関係構築
- 4. エンディングノートとの併用
- 実際の進め方:60歳からの遺言書作成ステップ
- ステップ1:現状把握(1-2ヶ月)
- ステップ2:専門家への相談(1ヶ月)
- ステップ3:遺言書の作成(1-2ヶ月)
- ステップ4:定期的な見直し(毎年)
- よくあるご質問
- まとめ:同世代として、そして専門家として
なぜ「60歳」が遺言書作成の最適なタイミングなのか
1. 人生の転換点としての60歳
私たち60代にとって、この年齢は人生の大きな節目ですよね。定年退職を迎えた方、再雇用で働き方が変わった方、完全にリタイアして新しい生活を始めた方など、それぞれが人生の棚卸しを行っている時期だと思います。
私自身もこの年代を迎えて実感するのですが、この時期だからこそ:
将来への見通しが立てやすい
財産の全体像が把握しやすい
家族関係が安定している
時間的余裕がある
判断能力が十分にある
同世代の皆さんならお分かりいただけると思いますが、これほど冷静に人生を見渡せる時期は、そうそうありません。
2. 統計が示す現実
私たち世代にとって耳の痛い話かもしれませんが、現実を見つめることも大切です。厚生労働省の統計によると、日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳となっています。60歳から平均寿命までは、まだ20年以上あります。
さらに重要なのは健康寿命(自立して活動できる年齢)です。2022年の厚生労働省データでは、健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳となっています。つまり、私たち60代が自立して判断できる期間は、男性で約12年、女性で約15年程度ということになります。
ただし、このコラムを書く中で改めて知った現実として、以下のようなリスクもあります:
認知症の発症率は70歳代から急激に上昇
脳血管疾患による判断能力の低下リスク
突然の病気や事故の可能性
私自身、親の介護を経験された同世代の方々のお話を聞くにつけ、判断能力が十分にある今のうちに準備することの重要性を痛感しています。
3. 財産形成のピーク期
60歳前後は、多くの方にとって財産形成のピーク期です。
この時期の特徴:
住宅ローンの完済または残債が少ない
退職金の受給
企業年金や個人年金の確定
株式や投資信託などの資産状況の把握
子どもたちの独立による家計負担の軽減
財産の全体像が見えやすいこの時期こそ、遺言書作成に最適なタイミングと言えます。
60歳から遺言書を作成する5つのメリット
メリット1:時間をかけて慎重に検討できる
60歳代で遺言書を作成する最大のメリットは、十分な時間をかけて検討できることです。
具体的には:
家族との話し合いの時間が取れる
複数の専門家の意見を聞ける
資産状況の変化に応じて修正できる
感情的にならずに冷静な判断ができる
病気になってから慌てて作成するのと、健康なうちに余裕を持って作成するのでは、内容の充実度が大きく異なります。
メリット2:家族関係の整理ができる
60歳代は、親としての責任がほぼ完了し、家族関係が安定している時期です。
この時期だからこそできること:
子どもたちの将来性や性格を見極められる
配偶者との老後の生活設計を話し合える
孫の存在も考慮に入れられる
親の介護や相続の経験を活かせる
家族それぞれの状況を冷静に判断し、最適な相続方法を考えることができます。
メリット3:税制改正や法改正への対応余裕
相続に関する法律や税制は定期的に改正されます。60歳代で遺言書を作成しておけば、これらの変更に柔軟に対応できます。
最近の主な改正例:
配偶者居住権の創設(2020年)
自筆証書遺言の法務局保管制度開始(2020年)
相続土地国庫帰属制度の創設(2023年)
早めに専門家との関係を築いておくことで、これらの改正情報を適切に取り入れることができます。
メリット4:認知症対策としての効果
認知症になってしまうと、遺言書の作成は困難になります。厚生労働省の調査による認知症の有病率(医師による診断を受けた方の割合)は以下のようになっています:
65-69歳:約1.5%(約67人に1人)
70-74歳:約3.6%(約28人に1人)
75-79歳:約7.1%(約14人に1人)
80-84歳:約14.6%(約7人に1人)
85歳以上:約27.3%(約4人に1人)
ただし、これは医師による確定診断を受けた方の数値であり、軽度認知障害(MCI)などの予備軍を含めると、実際の数はさらに多くなると言われています。専門家の話では、予備軍も含めると75歳以上では約4人に1人が何らかの認知機能の低下を抱えているとのことです。
私たち60代での遺言書作成は、将来のこうしたリスクに対する有効な備えとなります。
メリット5:相続人の負担軽減
早期に遺言書を作成することで、相続人となる家族の精神的・手続き的負担を大幅に軽減できます。
具体的な効果:
相続争いの予防
手続きの簡素化
相続人同士の話し合いの必要性減少
故人の意思の明確化
「まだ早い」という5つの誤解を一緒に解消しましょう
誤解1:「遺言書は死ぬ直前に作るもの」
同世代として共感できる気持ちですが: 実は遺言書は何度でも書き直すことができるんです。私たちが60歳で作成した遺言書を、70歳、80歳で見直すことは全く問題ありません。むしろ、定期的な見直しを前提とした早期作成が理想的だと、専門家として断言できます。
誤解2:「まだ財産が確定していない」
これも、私たちがよく感じることですよね: でも考えてみてください。財産は日々変動するものです。現時点での財産状況をもとに遺言書を作成し、大きな変化があった時に見直せば十分なんです。遺言書作成業務を学ぶ中で分かったことですが、完璧を求めて先延ばしするより、現状での最善策を講じることの方が大切なのです。
誤解3:「家族に不吉な印象を与える」
お気持ち、よく分かります: でも最近では、遺言書作成は「責任ある大人の準備」として理解されています。私たち行政書士が相談を受ける中でも、むしろ家族から「しっかり考えてくれてありがとう」と感謝されるケースの方が圧倒的に多いんです。
誤解4:「健康なうちは必要ない」
私たちの世代だからこそ理解できることですが: 健康だからこそ、冷静で適切な判断ができるんです。病気になってから慌てて作成するより、今のように健康で余裕があるうちに準備することが、より良い遺言書作成につながります。そろそろ健康にも体力にも不安を感じ始める我々世代だからこそご理解いただけると思います。
誤解5:「費用がもったいない」
同世代の堅実な考え方として理解できますが: 行政書士として遺言作成手続きや相続を学ぶ中で知ったことですが、遺言書がないことによる相続争いでは、弁護士費用、調停費用、裁判費用が発生し、遺言書作成費用を大きく上回るケースが少なくありません。何より、金銭では計り知れない家族関係の悪化や、長期間にわたる精神的負担を考えると、遺言書作成は家族の平和を守る大切な備えと言えるでしょう。私自身も親の相続を経験し、事前の準備の重要性を実感しています。
60歳代での遺言書作成のポイント
1. 段階的なアプローチを採用
60歳代では、まだ20年以上の人生があります。まずは60代のうちに基本的な遺言書を作成し、その後人生の変化に応じて内容を充実させていく段階的なアプローチをおすすめします。
段階的アプローチの例:
第1段階(60-65歳):基本的な遺言書の作成
o 現時点での財産状況をもとに遺言書を完成させる
o 基本的な相続方針を明文化する
o 安心の土台を築く
第2段階(65-70歳):内容の見直しと充実
o 退職金確定後の財産状況を反映
o より詳細な財産分割方法を検討
o 家族状況の変化を盛り込む
第3段階(70歳以降):最終的な調整
o 健康状態や介護の状況を考慮
o 最新の法制度を反映
o より具体的な内容への調整
「でも、何度も作り直すと費用がかさむのでは?」とご心配される方もいらっしゃるでしょう。確かに、遺言書を見直すたびに費用は発生します。
しかし、考えてみてください。私たちは健康のために定期的に健康診断を受けますし、車の安全のために車検を受けます。それと同じように、家族の平和と安心のための「定期メンテナンス」として考えていただければと思います。
何より重要なのは、今すぐ何かあっても家族が困らない状態を作ることです。完璧な遺言書を先延ばしにするより、現時点でのベストな遺言書を今すぐ作成し、必要に応じて更新していく方が、はるかに価値があります。
実際、私が相談をお受けする中でも、「もう少し考えてから」とおっしゃっていた方が、突然の病気で慌てて相談に来られるケースもあります。そのときの家族の不安や混乱を考えると、早期の準備がいかに大切かを痛感します。
2. 家族とのコミュニケーションを重視
60歳代は、家族と十分な話し合いができる貴重な時期です。遺言書の内容について、可能な範囲で家族と話し合うことをおすすめします。
話し合いのメリット:
家族の理解と納得を得られる
予想外の反対意見を事前に把握できる
家族の希望を反映できる
相続争いの予防効果が高まる
3. 専門家との長期的な関係構築
60歳代での遺言書作成は、専門家との長期的なパートナーシップの始まりです。信頼できる専門家を見つけ、継続的な関係を築くことが重要です。
私が開業の際に、あるお寺の住職さんからいただいた印象深い言葉があります。先代の住職さんは、ご信徒さんによく「人生には重要な三人の友達を持ちなさい」と言われていたそうです。それは、お医者様とお坊様と、法律の専門家だとのことでした。
行政書士は「町の身近な法律家」として、私たち60代を迎えられた方々の身近な「かかりつけ法律家」として役に立てればと思います。
専門家との長期的な関係で得られるもの:
法改正情報の提供
定期的な遺言書の見直し
相続税対策のアドバイス
家族信託などの新しい制度の情報
他の専門家(税理士、司法書士など)の紹介
人生の各段階での法的サポート
介護や医療に関する制度の情報提供
家族の悩み相談にも対応
4. エンディングノートとの併用
遺言書と併せて、エンディングノートの作成もおすすめします。
エンディングノートに記載する内容:
介護や医療に関する希望
葬儀やお墓に関する意向
デジタル遺品(SNSアカウント等)の処理方法
大切な人へのメッセージ
保険や年金の詳細情報
実際の進め方:60歳からの遺言書作成ステップ
ステップ1:現状把握(1-2ヶ月)
財産の棚卸し:
不動産の評価額確認
金融資産の整理
保険の受益者確認
負債の確認
家族関係の整理:
相続人の確定
各人の状況把握
特別な配慮が必要な人の確認
ステップ2:専門家への相談(1ヶ月)
相談内容:
相続税の概算
最適な遺言書の種類
節税対策の検討
家族信託の必要性
ステップ3:遺言書の作成(1-2ヶ月)
作成プロセス:
基本方針の決定
具体的な分割方法の検討
遺言執行者の選定
文案の作成と確認
ステップ4:定期的な見直し(毎年)
見直しのタイミング:
誕生日や正月などの節目
大きな法改正があった時
家族状況に変化があった時
財産状況に大きな変化があった時
よくあるご質問
Q1:60歳で遺言書を作成したら、変更はできないのですか?
A1:遺言書は何度でも変更可能です。新しい遺言書を作成すれば、古いものは自動的に無効になります。60歳で作成した遺言書を70歳、80歳で見直すことは全く問題ありません。
Q2:まだ働いているので、退職金の額が確定していません
A2:退職金については「退職金相当額」として概算で記載し、確定後に修正することができます。完璧を求めて先延ばしするより、現時点での最善策を講じることが重要です。
Q3:子どもたちに遺言書のことを話すべきでしょうか?
A3:家族関係が良好であれば、基本的な方針程度は共有することをおすすめします。ただし、具体的な金額や詳細な分割方法まで話す必要はありません。「みんなのことを考えて準備している」という姿勢を伝えることが大切です。
Q4:認知症になった場合、遺言書は無効になりますか?
A4:認知症になっても、判断能力があるうちに作成された遺言書は有効です。ただし、症状が進行すると新しい遺言書の作成や変更は困難になります。だからこそ、健康なうちの早期作成が重要なのです。
まとめ:同世代として、そして専門家として
私たち60代にとって、遺言書作成は決して早すぎることはありません。むしろ、最も適切なタイミングだと、同世代を生きる者として、そして法律を学ぶ中で確信しています。
私たち60代で遺言書を作成する意義:
十分な時間をかけて慎重に検討できる
家族との話し合いの時間がある
将来の認知症リスクへの備えができる
相続人の負担を大幅に軽減できる
法改正への対応余裕がある
人生100年時代と言われる現代において、60歳はまだ人生の折り返し地点です。だからこそ、残りの人生を安心して過ごすための準備が必要なんです。
遺言書は、私たちの最後の意思表示であり、愛する家族への最後の贈り物でもあります。同世代の仲間として、「まだ早い」という考えを一緒に見直し、今こそ行動を起こしてみませんか?
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