韓国人の帰化申請 ~韓国側手続きと「特別永住者」という特例を理解する~
皆さん、こんにちは。未来扶桑行政書士事務所 行政書士の樋口裕昭です。
韓国・朝鮮籍の方の帰化申請は、長年にわたって国籍別帰化許可者数の1位を占めてきました。令和6年(2024年)は中国に初めて首位を譲ったものの、依然として2,283人が帰化を許可されており、在日コリアンコミュニティと帰化申請は切っても切り離せない関係にあります(法務省民事局発表資料・2025年公表)。
韓国籍の方の帰化申請が他の国籍と大きく異なるのは、「特別永住者」という制度の存在です。特別永住者かどうかによって、居住要件・必要書類の両面で大きな違いがあります。今回は、韓国籍の方が帰化申請を進めるうえで知っておくべきポイントを、特別永住者とそれ以外の方に分けて整理します。

特別永住者とは何か——まずここを押さえる
特別永住者とは、主に戦前・戦中期に朝鮮半島から日本に渡り、そのまま定住した人々とその子孫を指します。1945年の日本敗戦により朝鮮半島が独立した後も日本に残った方々は、長年にわたって法的地位が不安定な状況に置かれていました。こうした歴史的経緯を踏まえ、1991年に施行された「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」(入管特例法)によって特別永住者制度が設けられました。
特別永住者は在留資格の更新なしに永住でき、就労・教育・社会保障などの権利も安定しています。この制度の存在が、韓国籍の方の帰化申請における要件・書類の双方に大きな影響を与えています。
2026年4月施行——審査運用の見直しで何が変わったか
2026年3月27日、法務省は帰化申請の審査運用に関する重要な見直しを発表しました。4月1日以降の帰化審査から、次の2点が変更されています。
居住要件の運用見直し(実質10年以上に)
国籍法上の居住要件は「引き続き5年以上日本に住所を有すること」のままですが、審査運用上は「原則10年以上」の居住実績が求められるようになりました。5年という数字はあくまで法律上の最低ラインであり、実際の審査では10年を目安とした運用がなされます。
この背景には、永住許可とのバランスの問題がありました。永住許可はガイドライン上「原則10年以上」の居住を求めているのに対し、帰化の運用上の基準がそれより緩かったという指摘が長年あり、2025年11月に高市首相が法務大臣に見直しの検討を指示したことが今回の変更につながっています。
特別永住者については、国籍法第6条の簡易帰化の規定により「引き続き3年以上」という居住要件が引き続き適用されます。ただし特別永住者でない韓国籍の方については、この「原則10年以上」の運用が審査上の基準となるため、5年を少し超えた段階で申請を考えていた方は、スケジュールの再検討が必要です。
納税・社会保険料の確認期間が大幅に拡大
従来は「直近1年分」の確認が基本でしたが、4月1日以降は納税が「直近5年分」、社会保険料が「直近2年分」に確認範囲が拡大されました。「申請直前だけ納付を整えれば大丈夫」という考え方は通用しなくなっています。住民税・国民年金・国民健康保険(または社会保険)について、在留期間を通じた適切な納付管理が、帰化申請の成否を左右する重要な要素となりました。特別永住者の方も例外ではなく、長期在住者であるがゆえに確認対象となる期間の管理が重要です。
重要:4月1日より前に申請済みの方にも適用される
今回の運用変更で特に注意が必要なのは、この見直しが2026年4月1日以降に新たに申請する方だけでなく、すでに申請済みで審査中の方にも適用されるという点です。通常、法令や運用の変更は経過措置を設けて新規申請からの適用とするケースが多いのですが、今回はそうではありません。4月1日より前に申請を受理されていた方も、審査の継続中であれば新たな運用基準のもとで審査が進められます。すでに申請中の方は、過去の納付状況の再確認や、居住期間の実態が新基準に照らして問題がないかを改めて点検しておくことが求められます。
居住要件——特別永住者は大幅に緩和される
通常の帰化申請では「引き続き5年以上日本に住所を有すること」が居住要件です。しかし特別永住者については、国籍法第6条の簡易帰化の規定が適用され、この5年という居住期間要件が大幅に緩和されます。
具体的には、特別永住者は「引き続き3年以上日本に住所を有し、かつ現に日本に住所を有すること」という要件で帰化申請が可能です。日本生まれで特別永住者として育った方であれば、この居住要件は実質的に問題になりません。
さらに日本生まれの特別永住者であれば、生計要件・重国籍防止要件・日本語能力要件についても、日本で普通に生活してきた方であればほぼ自然に満たされる内容です。要件面でのハードルが他の外国籍の方と比べて低いのが、特別永住者の帰化申請の特徴といえます。
一方、韓国生まれで就労目的等で来日した韓国籍の方(特別永住者でない方)については、2026年4月以降の運用見直しにより「原則10年以上」の居住実績が審査上の基準となっています。引き続き10年以上日本に住んでいる場合は、1年以上の就労系在留資格でも帰化が認められる簡易帰化の適用を受けられるケースがありますが、5〜9年の居住期間の方は改めて状況を確認することが必要です。
韓国側の書類——「家族関係登録制度」に基づく5種の証明書
韓国籍の方の帰化申請で提出が必要な本国書類は、韓国の「家族関係登録制度」に基づくものです。韓国では2008年に従来の戸籍制度が廃止され、家族関係登録制度に移行したため、以前の「戸籍謄本」に相当する書類が複数の証明書に分かれています。
帰化申請で必要となる主な韓国側書類は次のとおりです。いずれも「詳細証明」で取得することが必要です。
基本証明書(申請者本人の氏名・生年月日・登録基準地・改名歴等)
家族関係証明書(父母・配偶者・子などの家族構成)
婚姻関係証明書(婚姻・離婚の履歴)
入養関係証明書(養子縁組の有無)
親養子入養関係証明書(親養子縁組の有無)
申請者の父母の家族関係証明書・婚姻関係証明書
除籍謄本(母親が出産可能年齢に達した頃まで遡って取得)
これらの書類はすべて、日本にある韓国領事館で取得することができます。中国籍の方のように現地(本国)の機関へ直接赴く必要がない点は、手続き上の大きなメリットです。ただし取得した書類にはすべて日本語翻訳文の添付が必要で、翻訳者の氏名・住所・翻訳日の記載が求められます。
「登録基準地」が不明なケースに注意
韓国側書類の取得で特別永住者の方がつまずきやすい点が「登録基準地(本籍地)」の把握です。韓国生まれの方はおおむね把握しているケースが多いですが、日本生まれの特別永住者の方は登録基準地が不明というケースが少なくありません。登録基準地がわからないと韓国書類の発行が受けられないため、申請準備の早い段階で家族・親族に確認しておくことが必要です。
また、家族関係が複雑な場合(再婚・養子縁組等)は、法務局から電算化以前の旧除籍謄本の取得を求められることもあります。旧制度下の書類は取得に時間がかかる場合もあるため、余裕をもって準備を進めることが重要です。
特別永住者の書類緩和——令和6年7月以降の改正
令和6年(2024年)7月1日以降、特別永住者の帰化申請における必要書類の一部が緩和されました。具体的には、パスポートのコピー・父母の死亡届記載事項証明書・在学証明書などが特別永住者については不要となっています。書類の準備を始める前に、最新の提出書類リストを法務局または行政書士に確認することをお勧めします。
兵役問題——帰化申請への影響はどの程度か
韓国籍の男性の方から「兵役を終えていないと帰化できないのか」というご質問をいただくことがあります。結論からいえば、兵役未履行であっても日本への帰化申請・許可は可能です。
帰化申請における重国籍防止要件は「帰化許可後に元の国籍を離脱できること」を確認するものであり、兵役の履行状況そのものを問うものではありません。韓国国籍の喪失手続きは帰化が許可された後に韓国大使館・領事館で行うことになりますが、すでに日本国籍が許可されている状況での離脱手続きであるため、兵役未履行を理由に拒否されることは実務上ありません。
ただし、兵役未履行の韓国籍男性が韓国に渡航する際には韓国国内の法律上の制約が生じる可能性があります。帰化申請の手続きとは別の問題として、渡航計画がある方は事前に確認しておくことをお勧めします。
帰化後の韓国国籍の喪失手続き
帰化が官報に告示され日本国籍を取得した後は、韓国大使館・総領事館で「国籍喪失届」の手続きを行います。これにより韓国国籍が正式に喪失となります。韓国も原則として二重国籍を認めていないため、日本国籍取得後は速やかに手続きを行うことが求められます。
なお、氏名については帰化後に日本の戸籍に記載する名前を自由に選択できます。韓国語の発音に近い読み方を日本語で設定する方法、漢字表記をそのまま日本語読みにする方法、日本人配偶者の姓を選ぶ方法など、選択肢は複数あります。名前の変更は帰化申請書類の記載段階で決定するため、家族との話し合いのうえで慎重に選択することをお勧めします。
専門家の支援を活用する——長丁場を乗り越えるために
帰化申請は、申請書類の作成から提出・審査・許可まで、すべての主体はあくまでも申請者ご本人です。行政書士はその手続きを支援する立場であり、申請そのものを代行するものではありません。しかし、この支援という役割が、実際の手続きの中で非常に大きな意味を持つなんです。
帰化申請は受理から許可まで1年以上を要することが珍しくなく、その間に審査の運用基準が変わることもあります。今回の4月1日施行の見直しが申請済みの方にも適用されるという異例の対応がまさにその例です。特別永住者の方を含め、審査中に新たな確認事項が生じた場合に何をどう対応すべきかを一緒に整理できる専門家の存在は、長い審査期間を通じて大きな安心につながります。
また、2026年度中には帰化申請の手数料が大幅に値上げされる可能性も検討されていると伝えられています。現時点では確定情報ではありませんが、こうした制度・費用面の動向をタイムリーに把握し、申請のタイミングや準備の進め方に反映させるためにも、専門家との継続的な関わりが助けになります。「自分一人で進めてみたが途中で壁にぶつかった」という段階からでも相談は可能ですが、早い段階から方向性を確認しながら進める方が、結果的に確実で効率的なんです。
審査期間の長期化——早めの動き出しを
近年、帰化申請件数の増加により、東京をはじめ各地の法務局で審査期間が長期化しています。特別永住者の方であっても、申請受理から許可まで8か月〜1年以上かかるケースが一般的です。2026年4月の運用見直しによって確認事項が増えたことで、今後さらに審査に時間を要するケースも想定されます。帰化を検討し始めたら、早めに法務局への相談予約を入れることが現実的な第一歩です。
今回の内容はいかがでしたでしょうか。「特別永住者かどうかわからない」「書類の取得方法を詳しく知りたい」「4月以降の運用変更が自分にどう影響するか確認したい」など、ご感想やご質問がありましたら、お問い合わせフォームからお気軽にお聞かせください。
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