60歳から始める財産目録作成〜現代に必要な新しい視点とは〜
遺言書を作ろうと思うけれど、自分にどんな財産があるのか、きちんと把握できているだろうか?」
私たち60代になると、長年にわたって築いてきた財産を整理する必要性を感じ始めますよね。私自身も最近、親の相続を経験した際に、「いったいどんなものがうちの財産なんだろうか」、「それらはどんな保管をされているんだろう」という戸惑いの連続でした。
特に郷里の母が亡くなる約一年前から施設に入り始めたころは、あまり記憶や言動が明瞭でない時もあり、今から財産目録など作れるのかな?などと不安に駆られました。幸いしっかり者の妹がきちんとサポートしてくれたので事なきを得ました。
そのとき痛感したのは、財産目録の重要性でした。そして同時に、「自分も家族に同じような苦労をかけたくない」という思いを強くしました。しかし、親の世代とは大きく異なり、私たちにはデジタル時代特有の新しい課題があることも実感しています。

財産目録がなぜこれほど重要なのか
遺言書の基礎となる重要な書類
財産目録は遺言書作成の基礎中の基礎です。2019年の法改正により、自筆証書遺言でも財産目録部分はパソコンで作成できるようになりました。この改正は、財産目録の重要性を法律が認めた証拠でもあります。
財産目録が不正確だと起こる問題を、私が実際に見聞きした例でご紹介します:
遺言書の内容と実際の財産が一致せず、家族が混乱
相続人間で「本当にこれで全部なのか」という疑念が生じトラブルに
遺言の執行が困難になり、余計な費用と時間がかかる
税務上の申告漏れが発覚し、追徴課税のリスク
相続税対策の出発点
行政書士として財産目録作成事務を学ぶ中で知ったのは、相続税の申告漏れの多くが財産の把握不足によるものだということです。正確な財産目録があることで、適切な相続税対策も可能になります。
家族への最大の配慮
親の相続を体験した私たち世代だからこそ分かるのは、財産の全体像が分からないと、遺された家族がどれほど困るかということです。銀行口座の数、保険の契約内容、投資の状況など、残された家族が一から調べるのは想像以上に大変な作業です。
特に現代では、パスワードが分からず重要な資産にアクセスできないという、親の世代にはなかった深刻な問題が増えています。
なぜ「今」が財産目録作成の重要なタイミングなのか
私たち60代は、判断能力が十分にある今だからこそ、時間をかけて丁寧に財産を整理できます。健康で冷静な判断ができる期間を有効活用し、家族に負担をかけない準備を整えることが重要です。
なぜ60歳代が最適なのか、その具体的な理由やデータに基づいた根拠については、当事務所で実施しているセミナーで詳しく解説いたします。また、このコラムでお話しする財産目録は「入口」の部分で、セミナーでは遺言書作成全体の流れの中で、より体系的かつ実践的な内容をお伝えする予定です。
基本的な財産の分類を知っておこう
財産目録を作成する前に、まず財産を大きく分類してみましょう。
プラスの財産(資産)
1. 不動産関連
土地(宅地、農地、山林、雑種地など)
建物(自宅、賃貸物件、別荘など)
借地権、借家権、定期借地権
2. 従来の金融資産
現金・預貯金(ゆうちょ銀行、都市銀行、地方銀行など)
株式、投資信託
国債、社債
外貨預金、外国株式
3. 保険・年金
生命保険(解約返戻金)
個人年金保険
確定拠出年金(iDeCo、企業型DC)
4. 動産
自動車、バイク
宝石、貴金属
美術品、骨董品
家具、家電
マイナスの財産(負債)
1. 借入金
住宅ローン
カードローン、キャッシング
知人からの借金
2. 未払金
税金の滞納
医療費の未払い
クレジットカードの未決済額
ここまでは従来からある基本的な財産です。しかし、私たち世代が直面する現代特有の課題は、親の世代にはなかった新しい財産をいかに把握・管理するかということです。
現代の相続で最も困る「見えない財産」〜デジタル遺産〜
パスワードが分からず、重要な資産が眠ったまま
先日、夫の遺品整理をしていた同世代の知人から、こんな相談を受けました。「夫のパソコンにパスワードがかかっていて、ネット銀行の口座があるらしいのですが、アクセスできずに困っています」
これこそが、現代の相続で最も深刻な問題の一つです。デジタル資産は物理的な形がないため、家族が存在に気づかないまま放置されるケースが急増しています。
ネット銀行・証券口座
見落としやすいオンライン金融サービス
最近増えているのが、ネット専業銀行や証券会社の口座です。通帳がないため、家族が存在に気づかないケースが多発しています。
具体的なサービス例:
楽天銀行、住信SBIネット銀行、PayPay銀行
SBI証券、楽天証券、マネックス証券
楽天カード、PayPayカード等の口座連携サービス
私自身も、普段使いの銀行とは別に、ネット銀行に事業口座を作っていることに、この記事を書きながら改めて気づきました。家族にはきちんと詳細を伝えていなかったので、早速整理しなければと反省しています。
電子マネーとポイント
意外に高額になることも
「たかがポイント」と思われがちですが、長年貯めると意外な金額になることがあります。
主な電子マネー・ポイント:
PayPay、楽天Edy、nanaco、WAON
Tポイント、楽天ポイント、Pontaポイント
Amazon、楽天市場のポイント
航空会社のマイレージ
私の知人は、亡くなったご主人のANAマイルが20万マイル以上貯まっていることが分かり、「これって使えるのでしょうか?」と相談されました。実は、多くの場合相続人への移行手続きが可能なのです。
仮想通貨(暗号資産)
法律上も相続財産として明確に位置づけ
2017年の仮想通貨法制定以降、法律上も仮想通貨は相続財産として明確に位置づけられています。しかし、管理が複雑なため、家族が存在を知らない、または知っていてもアクセスできないケースが頻発しています。
注意すべき点:
取引所の口座情報
ウォレットの秘密鍵
ハードウェアウォレットの保管場所
取引履歴の記録
仮想通貨は価格変動が激しいため、相続時の評価額の算定も複雑です。専門的な知識が必要な分野でもあります。
デジタルコンテンツ
継承可能性を確認しておく
主なデジタルコンテンツ:
電子書籍の購入履歴(Kindle、楽天Kobo等)
音楽・映像の配信サービス(Spotify、Netflix等)
オンラインゲームのアイテム・仮想通貨
ブログやYouTubeの収益
これらの多くは利用規約により相続が制限されている場合があります。しかし、収益を生んでいるコンテンツについては、相続可能な場合もあるため、事前の確認が重要です。
デジタル遺産の適切な管理方法
情報の整理と記録
アクセス情報の適切な管理
デジタル資産については、以下の情報を整理して記録しておくことが重要です:
サービス名と口座番号
ログインID・パスワード
登録メールアドレス
二段階認証の設定内容
問い合わせ先の連絡方法
ただし、セキュリティの観点から、これらの情報は安全な方法で保管し、信頼できる家族や専門家とのみ共有することが重要です。
定期的な見直しの重要性
デジタルサービスは頻繁にサービス内容が変更されたり、統合・廃止されたりします。年に1回程度は、保有しているデジタル資産の現状を確認し、情報を更新することをおすすめします。
見直しのポイント:
サービスの継続状況
残高やポイントの変動
アクセス方法の変更
相続時の取り扱い規約の確認
60代だからこそできる準備
時間をかけて慎重に検討できる
60歳代で財産目録を作成する最大のメリットは、十分な時間をかけて検討できることです。病気になってから慌てて作成するのと、健康なうちに余裕を持って作成するのでは、内容の充実度が大きく異なります。
家族関係の整理ができる
60歳代は、親としての責任がほぼ完了し、家族関係が安定している時期です。子どもたちの将来性や性格を見極められ、配偶者との老後の生活設計を話し合え、孫の存在も考慮に入れられます。
法改正への対応余裕
相続に関する法律や税制は定期的に改正されます。60歳代で財産目録を作成しておけば、これらの変更に柔軟に対応できます。早めに専門家との関係を築いておくことで、改正情報を適切に取り入れることができます。
今日からできること
今回は財産目録の重要性と、特に現代特有のデジタル遺産について詳しくお話ししました。関連コラムでは、ゴルフ会員権、知的財産権、海外資産など、さらに見落としがちな専門的な財産について解説していますのでそちらも是非ご参照ください。
今日からできること:
まずは手元にある通帳と保険証券を集めてみる
スマートフォンの銀行アプリを確認する
1つのノートに思いつく財産を書き出してみる
電子マネーやポイントの残高をチェック
パスワード管理の方法を見直す
「明日から始めよう」ではなく、この記事を読み終わったらすぐに取り掛かれる小さな行動から始めましょう。
遺言書作成についてより詳しく学びたい方、専門家のサポートをお求めの方は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。同世代として、専門家として、皆様の疑問にお答えいたします。私たちの人生の後半戦を安心して楽しむために、今こそ行動を起こしましょう。次回もぜひお読みください。
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