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施設入所中の親の遺言書作成 家族が知っておくべき実務知識

施設入所中の親の遺言書作成 家族が知っておくべき実務知識

皆さん、こんにちは。未来扶桑行政書士事務所 行政書士の樋口裕昭です。

 親御さんが介護施設や病院に入所・入院している状況で、「今のうちに遺言書を作成してもらいたい」とお考えのご家族は少なくありません。しかし、「施設にいる親の遺言書作成は可能なのか」「どのような手続きが必要なのか」と不安を感じている方も多いでしょう。

 「施設に入っている親の遺言書作成」は、多くのご家族が直面する課題です。判断能力の確認、公証人の手配、施設との調整など、通常の遺言書作成とは異なる配慮が必要になります。

 結論から申し上げると、施設入所中でも遺言書の作成は可能です。ただし、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。

 今回は、施設入所中の親御さんの遺言書作成について、ご家族が知っておくべき実務知識を詳しく解説します。

施設入所中でも遺言書作成は可能

 まず大前提として、親御さんが介護施設や病院に入所・入院していても、遺言書の作成は可能です。自宅にいる場合と法的な扱いは変わりません。

 ただし、施設入所中という状況を考慮すると、親御さんの判断能力の確認と、物理的な手続きの方法について、いくつかの配慮が必要になります。

 実際の現場では、施設入所後に「そろそろ遺言書を」と考えるご家族が多いのですが、むしろ施設入所前の元気なうちに作成しておくことが理想的です。とはいえ、「今からでも遅くない」というケースも多くありますので、諦めずに検討していただきたいと思います。

最も重要なのは判断能力の確認

 施設入所中の親御さんの遺言書作成で、最も重要なのは「遺言能力」の確認です。遺言能力とは、遺言の内容を理解し、その効果を判断できる能力のことです。

遺言能力の法的基準

 民法では、15歳以上で意思能力があれば遺言書を作成できるとされています。成年被後見人であっても、一時的に判断能力を回復している状態であれば、医師2名以上の立会いのもとで遺言書を作成することができます。

認知症がある場合の考え方

 認知症と診断されていても、必ずしも遺言書が作成できないわけではありません。軽度の認知症であれば、遺言能力があると判断される場合があります。

 重要なのは、遺言書作成時点での判断能力です。日によって調子の良し悪しがある場合は、調子の良い日を選んで作成することも検討すべきでしょう。

 高齢の親御さんの場合、日によって体調や気分に波があることも少なくありません。できるだけ調子の良い日を選んで話を進めることが、スムーズな遺言書作成につながります。

判断能力を客観的に記録する

 後々のトラブルを防ぐため、遺言書作成時の判断能力を客観的に記録しておくことをお勧めします。

 具体的には、主治医の診断書や意見書を取得する、遺言書作成当日の様子をビデオ撮影する(公証人の許可が必要です)、公証人による判断能力の確認記録を残す、といった方法があります。

 これらの記録は、万が一、相続発生後に遺言の有効性が争われた際の重要な証拠となります。

施設入所中は公正証書遺言が推奨されます

 施設入所中の親御さんの遺言書作成では、公正証書遺言を強くお勧めします。その理由は以下の通りです。

形式的な不備がない

 自筆証書遺言の場合、全文を自筆で書く必要がありますが、高齢で手が震える、視力が低下しているといった理由で、きれいに書くことが難しい場合があります。

 公正証書遺言であれば、公証人が作成するため、形式的な不備で無効になる心配がありません。

遺言能力の証明になる

 公証人は法律の専門家であり、遺言者の判断能力を確認したうえで遺言書を作成します。公証人が遺言能力ありと判断して作成した遺言書は、後々の紛争で有効性が争われるリスクが大幅に低下します。

 特に施設入所中の場合、「あの時はもう判断能力がなかった」と相続人間で争いになるケースがありますが、公証人の判断が入っていることで、こうしたトラブルを予防できます。

原本が公証役場に保管される

 公正証書遺言は、原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんのリスクがありません。相続発生後も、全国どこの公証役場からでも遺言書の有無を検索できます。

検認手続きが不要

 自筆証書遺言の場合(法務局保管を除く)、相続発生後に家庭裁判所での検認手続きが必要ですが、公正証書遺言はこの手続きが不要です。相続手続きをスムーズに進められます。

公証人は施設に出張してくれます

 施設入所中の親御さんの場合、公証役場まで出向くことが困難なケースがほとんどです。しかし、ご安心ください。公証人は施設や病院に出張して遺言書を作成してくれます。

出張対応の流れ

公証人の出張サービスを利用する場合の流れは、以下の通りです。

  1. まず公証役場に電話で相談し、出張を依頼します

  2. 遺言の内容について、公証人と事前に打ち合わせます

  3. 公証人、遺言者、証人の都合を調整します

  4. 施設側に公証人の訪問について連絡し、面談場所を確保します

  5. 公証人が施設を訪問し、遺言書を作成します

出張費用について

 公証人の出張には、通常の手数料に加えて、出張費用(日当・交通費)がかかります。日当は1万円または2万円(移動距離による)、交通費は実費です。

 遺言書作成の基本手数料は、遺言で譲渡する財産の価額によって異なりますが、一般的には数万円から十数万円程度です。出張費用を含めると、トータルで10万円前後かかることが多いですが、後々のトラブル予防を考えれば、決して高くない投資だと考えています。

必要書類と証人の準備

必要書類

公正証書遺言を作成する際は、以下のような書類が必要です。

  • 遺言者本人の印鑑登録証明書、戸籍謄本、住民票、本人確認書類

  • 不動産登記簿謄本、固定資産評価証明書、預貯金通帳のコピーなど財産に関する書類

  • 相続人・受遺者の戸籍謄本、住民票

 施設入所中の場合、書類の収集に時間がかかることもあるため、早めの準備をお勧めします。書類の収集は行政書士が代行することもできます。

証人2名の手配

 公正証書遺言を作成する際は、証人2名の立会いが必要です。ただし、未成年者、推定相続人・受遺者およびその配偶者・直系血族、公証人の配偶者・4親等内の親族などは証人になれません。

 証人は、親族や友人にお願いする、行政書士などの専門家に依頼する、公証役場で紹介してもらう、といった方法があります。最も確実で後々のトラブル予防にもなるのは、行政書士などの専門家に証人をお願いすることです。

施設との調整も大切です

公証人が施設に出張して遺言書を作成する場合、施設側との調整も必要です。

事前の連絡と説明

 公証人の訪問日時が決まったら、早めに施設に連絡しましょう。訪問者、訪問日時、目的、使用場所などを伝えるとスムーズです。

面談場所の確保

 遺言書作成には、ある程度のプライバシーが確保できる場所が必要です。多床室ではなく、個室や相談室などを利用できるか、施設に相談してください。

所要時間の目安

 公正証書遺言の作成には、通常30分から1時間程度かかります。親御さんの体調によってはもう少し時間がかかることもあるため、余裕を持ったスケジュールを組みましょう。

 また、施設での食事時間やリハビリの時間などと重ならないよう、親御さんの日課も考慮してスケジュールを組むことが大切です。

家族が注意すべき重要なポイント

親の意思を最優先する

 施設入所という状況から、「今のうちに作っておかないと」と焦る気持ちは理解できます。しかし、最も大切なのは親御さん自身の意思です。

 無理強いは絶対に避けてください。親御さんが「まだ考えたくない」「必要ない」と言っている場合は、いったん引くことも必要です。

親の体調を最優先する

 遺言書作成には、ある程度の集中力と体力が必要です。親御さんの体調が良い日を選び、無理のないスケジュールを組みましょう。

 体調が悪い日に無理に進めると、判断能力が疑われるだけでなく、親御さんの心身に負担をかけることになります。

きょうだいで情報を共有する

 きょうだいがいる場合は、遺言書作成について事前に情報を共有しておくことをお勧めします。一部のきょうだいだけで進めると、後々「知らされていなかった」「勝手に決められた」とトラブルになる可能性があります。

遺言内容について口を出さない

 親御さんが遺言内容を話してくれた場合、子供側の希望や意見を押し付けないよう注意してください。「こうした方がいい」「あの人には渡さない方がいい」といった誘導は、親の本当の想いを歪めることになります。

親御さんの想いを尊重し、それを実現するサポートに徹することが、子供の役割です。

早めの準備を心がける

 施設入所中の親御さんの場合、判断能力が急に低下したり、体調が悪化したりする可能性があります。「そのうち」と先延ばしにせず、親御さんが前向きに考えている今のうちに、できる準備を進めておきましょう。

 ただし、これは「焦って無理強いする」こととは違います。親御さんのペースを尊重しながら、機会を逃さないという意味です。

専門家のサポートを活用しましょう

 施設入所中の親御さんの遺言書作成は、通常のケースよりも配慮すべき点が多く、ご家族だけで進めるのは不安を感じることもあるでしょう。

 行政書士などの専門家に相談することで、親御さんの意思確認と遺言内容の整理、必要書類の収集代行、公証役場との調整、証人の手配、施設との調整のアドバイス、遺言書作成当日の立会いなど、様々なサポートを受けられます。

 特に、親御さんと行政書士が直接面談することで、家族には言いにくい想いを話しやすくなる場合もあります。第三者の専門家が入ることで、むしろスムーズに進むケースも少なくありません。

 また、当事務所では施設や病院への出張相談も承っております(別途出張費用が必要です)。親御さんが施設から出ることが難しい場合でも、直接お話を伺い、遺言書作成のサポートをさせていただくことが可能です。施設での面談をご希望の場合は、お気軽にお問い合わせください。

まとめ

施設入所中の親御さんの遺言書作成について、重要なポイントをまとめます。

  • 施設入所中でも遺言書の作成は可能です

  • 最も重要なのは親御さんの判断能力(遺言能力)の確認です

  • 公正証書遺言が最も安心で確実な方法です

  • 公証人は施設に出張してくれるので、親御さんが移動する必要はありません

  • 必要書類や証人の準備を早めに進めましょう

  • 施設との調整も大切です

  • 親御さんの意思と体調を最優先し、無理強いは避けてください

  • きょうだいで情報を共有し、後々のトラブルを予防しましょう

  • 専門家のサポートを活用することで、スムーズに進められます

 施設入所中の親御さんの遺言書作成は、決して特別なことではありません。適切な準備と配慮をすれば、親御さんの想いを確実に形にすることができます。

 大切なのは、親御さんの意思と体調を最優先し、焦らず丁寧に進めることです。そして、一人で抱え込まず、きょうだいや専門家のサポートを上手に活用することです。

 親御さんが「自分の想いを家族に伝えられた」と安心できること。それが、遺言書作成の本当の目的だと思います。


 今回のコラムが、皆さんと親御さんとの大切な準備のきっかけになれば幸いです。施設入所中の親御さんの遺言書作成に関するご質問や不安な点がございましたら、お気軽に当事務所のお問合せフォームからご相談ください。皆さんからのご感想やご意見もお待ちしております。

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