空き家問題、他人事ではない ~相続・地域安全・行政書士の視点~
皆さん、こんにちは。未来扶桑行政書士事務所 行政書士の樋口裕昭です。
このたび、東京都行政書士会の空き家対策特別委員会が主催する所定の講習を修了し、効果測定にも合格して「空き家問題相談員」として認定を受けることができました。これを機に、空き家問題について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
「うちには関係ない」とお感じの方もいらっしゃるかもしれません。しかし実際には、親が亡くなって実家を相続したものの、どうすればいいかわからないまま放置してしまうケースは、都市部でも決して珍しくありません。東京・板橋区であっても例外ではなく、空き家問題は今や地方だけの課題ではなくなっています。
今回は、空き家の現状を数字でしっかりと確認し、放置した場合のリスク、活用の選択肢、法律の仕組み、そして行政書士として・空き家問題相談員としてできることをわかりやすくご説明します。

数字で見る空き家の実態
全国:900万戸・東京23区を超える敷地面積
2023年の総務省「住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家数は約900万戸で過去最多を更新し、空き家率は13.8%に達しています。1993年からの30年間でほぼ2倍になった数字が、問題の深刻さを物語っています。
戸数だけでは感覚が掴みにくいかもしれません。国土交通省の試算によると、放置状態の空き家(その他の住宅)の敷地面積の合計は約7.1万haにのぼるとされており、これは東京23区全体の面積(約6.3万ha)を上回る広さです。これほどの土地が、日本各地で活用もされず、管理もされないまま存在しているということになります。
さらに、空き家の取得経緯で最も多いのは相続(54.6%)であり、所有者の約3割は空き家の所在地まで車や電車で1時間以上かかる遠方に暮らしています。相続した実家が遠方にあって管理できない、というケースが問題の中心にあることがわかります。
一都三県の比較
東京・神奈川・埼玉・千葉の一都三県は、全国の中では比較的空き家率が低いエリアに分類されます。埼玉県・神奈川県は全国でも空き家率の低い都道府県の上位に入っており、人口増加と中古物件の流通が活発なことがその背景と考えられています。
東京都全体の空き家戸数は約90万戸、空き家率は10.9%で、2018年から増加しています。全国平均の13.8%と比べると低めですが、90万戸という絶対数は非常に大きく、首都圏だからといって油断はできません。東京都の空き家のうち約7割は賃貸用の空室ですが、長期不在・取り壊し予定の空き家も約21万戸にのぼります。
板橋区の実情
では、私が行政書士として活動している地元・板橋区に目を向けてみましょう。
令和5年の住宅・土地統計調査によると、板橋区内の住宅総数363,490戸のうち空き家は42,490戸、空き家率は11.7%です。
東京23区の中で空き家率が高い区は豊島区(13.9%)、港区(13.7%)、荒川区(12.9%)などが上位を占めており、板橋区の11.7%はそれらより低い数値です。しかし空き家の絶対数では板橋区は23区の中で4番目に多い状況となっています。人口・住宅数が多い板橋区ならではの数字といえます。
内訳を見ると、板橋区の空き家のうち約76%は賃貸用の空室ですが、一戸建ての空き家(その他住宅)も2,020戸存在しており、こうした物件こそが防犯・防災・衛生の面で地域に深刻な影響をもたらしやすいものです。板橋区は不燃化特区を含む木造密集地域を一部に抱えており、老朽化した空き家問題とは切り離せない背景があります。
なぜ空き家は生まれるのか
空き家になる背景には、さまざまな事情が絡み合っています。よく見られる主なパターンは次の通りです。
相続したが、次の一手がわからない 親が亡くなり実家を引き継いだものの、活用の見通しも立たず、売却にも踏み切れず、時間だけが経過してしまう
遠方に住んでいて管理が追いつかない 本人は東京在住でも実家は地方や郊外にあり、頻繁に足を運べない
解体費用の高さがネックになっている 木造一戸建ての解体費用は100万〜300万円以上かかることもあり、費用面で躊躇してしまう
共有相続で話し合いがまとまらない 相続人が複数いる場合、売却・解体・活用いずれも全員の合意が必要なため、一人でも反対があれば身動きが取れない
思い入れがあって手放せない 長年暮らした家への愛着や親への思いが、合理的な判断を先送りにさせてしまう
特に相続によって所有者が変わったものの、活用・売却されないまま空き家になるケースは問題視されており、高齢者のみが居住する一戸建ては「空き家予備軍」として、今後さらに増加すると見込まれています。
放置するとどうなるのか
所有者個人へのリスク
最も見落とされがちなのが固定資産税の問題です。通常、住宅が建っている土地には「住宅用地の特例」という優遇があり、固定資産税が大幅に軽減されています。しかし後述の法律によって、管理が不十分と判断された空き家はこの優遇が失われ、税額が最大6倍程度にまで跳ね上がることがあります。「放置していれば少なくとも税金だけは安い」という考えは、もはや通じない時代になりました。
また、老朽化した建物が倒壊したり、外壁の一部が落下して通行人や隣人に損害を与えた場合、建物の所有者は民法上の工作物責任(民法717条)として損害賠償責任を問われる可能性があります。「知らなかった」「遠くて管理できなかった」は、法的免責の理由にはなりません。
地域へのリスク
放置空き家は所有者だけの問題ではなく、地域全体に影響が及びます。
建物の老朽化にともなう倒壊・火災・外壁落下のリスク
手入れのされていない庭からの雑草・害虫・悪臭など衛生面の悪化
人の出入りがなくなった建物を狙った不法侵入・不法投棄
景観の悪化が引き起こす地域の住環境・資産価値の低下
こうした問題が全国各地で深刻化した結果、行政は最終手段である「行政代執行」——行政が強制的に建物を撤去し、その費用を所有者に請求する措置——に踏み切らざるを得ないケースが増えています。国土交通省・総務省の調査によると、法施行から令和4年度末(2023年3月)までの累計で、行政代執行180件、略式代執行415件(所有者不明の場合に手続きを簡略化したもの)、合わせて595件に達しています。また令和6年時点では、全国で約192,540件の空き家が助言・指導から代執行に至るまでの何らかの行政措置の対象となっています。
板橋区においても、管理が行き届かないまま放置された空き家について、空き家特措法に基づく行政代執行が実施された事例があります。これは国内でも数少ない事例であり、板橋区がこの問題にいかに真剣に向き合ってきたかを示しています。
空き家は「負動産」から資産へ変えられる
「放置するしかない」とあきらめる前に、空き家にはさまざまな活用の選択肢があることを知っておいてください。売却だけが出口ではありません。建物の状態・立地・所有者の意向に応じて、次のような方法が検討できます。
賃貸住宅として貸し出す 最もオーソドックスな方法です。リフォームの規模によりますが、状態が良ければ比較的小さな費用で賃料収入を得られます。ファミリー向けの戸建て需要は根強く、長期入居につながりやすいのも特徴です。
シェアハウスに転用する 複数の入居者に部屋を貸し出すスタイルで、単身者・学生・外国人居住者など幅広い需要があります。空室リスクを分散できる点がメリットです。東京都内でもシェアハウスへの転用事例は増えています。
民泊施設として活用する 住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)に基づき、都道府県への届出を行うことで旅行者向けの宿泊施設として運営できます。ただし年間営業日数の上限(180日)など規制があり、エリアによっては条例でさらに制限されている場合もあるため、事前の確認が必須です。
地域の交流・活動拠点にする 子育て支援スペース、コワーキングスペース、地域住民が集うコミュニティカフェなど、建物を「人が集まる場所」として再生する取り組みが全国で広がっています。収益よりも地域貢献を優先したい所有者に向いた形態です。
解体して土地を活用する 駐車場として貸し出す、あるいは更地にして売却するという選択肢もあります。建物の維持管理コストや固定資産税の問題がなくなるため、思い切って解体することで状況が好転するケースも少なくありません。
どの方法が適しているかは、建物の築年数・構造・立地・相続人の状況によって大きく異なります。また、民泊や用途変更を伴うリノベーションには建築基準法・消防法上の確認が必要な場合もあり、早めに専門家に相談することが重要です。
知っておきたい法律の仕組み
「空き家特措法」とは何か
2015年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、空き家特措法)が施行されました。それまでは、たとえ危険な状態の空き家であっても、個人の財産への行政介入には法的な根拠が乏しく、対応に限界がありました。同法の施行により、行政は「特定空家等」と認定した空き家に対して段階的な措置を取れるようになりました。
ここで一点補足しておくと、法律上の「空き家」の定義(1年以上使用されていない建物)と、統計上の「空き家」(居住世帯のない住宅)は必ずしも一致しません。電気・ガス・水道が契約されていて定期的に清掃されている場合は法律上は空き家に該当しないケースもあるため、「自分の実家はどちらにあたるのか」という視点で確認することも大切です。
2023年の法改正で何が変わったのか
令和5年(2023年)に空家法が改正され、特定空家になる前の段階の空き家も「管理不全空家」として指導・勧告の対象となりました。管理不全空家として勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例(軽減措置)が受けられなくなります。
改正前は「倒壊の危険があるレベル」に達して初めて行政が動ける仕組みでしたが、改正後は「危険ではないが管理が不十分」という段階から行政が関与できるようになりました。「まだ大丈夫」という状況でも、行政の目が向けられる可能性があるということです。
特定空家に指定されたら、どうなるのか
行政が「特定空家等」と認定すると、次の流れで措置が進みます。
助言・指導 所有者に対し、適切な管理や対処を穏やかに求める
勧告 この段階で固定資産税の住宅用地特例(減額措置)が失われる。税額が最大6倍程度に跳ね上がる可能性がある
命令 正当な理由なく従わない場合、50万円以下の過料が科される
行政代執行 行政が強制的に建物を撤去し、費用(数百万円になることも)を所有者に請求する
勧告の段階で税の優遇が外れるため、通知が来てから慌てて対処するのでは間に合わないこともあります。また、法律上は所有者が亡くなって相続放棄がなされた場合でも、管理責任は相続財産管理人等に引き継がれる仕組みがあります。「誰も相続しなければ終わり」とはならないのです。
なお、空き家の売却時には、相続した親の住まいについて一定の条件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できる税制特例があります(相続開始から3年以内の譲渡が条件のひとつ)。早めに動けば税制上のメリットも活かせる場合があるため、この点についても税理士へのご相談をお勧めします。
空き家問題相談員・行政書士としてできること
空き家問題は不動産・法律・税務・建築など複数の専門分野が絡み合う複合的な課題です。すべてを一人の専門家が解決できるわけではありませんが、「空き家問題相談員」として、まず状況を整理し、次のステップを一緒に考えることができます。
行政書士の業務範囲内でお役に立てる主な場面は次の通りです。
相続手続きに関わる書類の作成(遺産分割協議書、相続関係説明図など)
空き家の活用・売却・解体に向けた各種申請書類の作成
補助金・助成金申請のための書類作成サポート(板橋区には老朽建築物の除却費助成制度があります)
なお、相続税の計算・申告は税理士、不動産の名義変更(相続登記)は司法書士、境界確認や建物評価は土地家屋調査士・建築士の専門領域です。私自身がこれらの業務を直接行うことはありませんが、それぞれの専門家へスムーズにつなぐことができるよう、連携体制を整えていきたいと考えています。
「親の実家が空き家になってしまった」「相続したけれど次の一手がわからない」「固定資産税の通知が気になっている」——どんな小さな疑問でも構いません。まずはお気軽にご相談ください。
空き家問題は、手をつけるのが早ければ早いほど、選択肢が広がります。「一度話を聞いてみよう」と思っていただけることが、最善の第一歩です。
今回のコラムはいかがでしたか?「実は身近に同じ状況がある」「もっと詳しく知りたいことがある」など、皆さんのご感想やご質問をお問合せフォームからぜひお気軽にお寄せください。
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