親の財産状況を生前に把握する~円満な相続準備のための家族会議
皆さん、こんにちは。未来扶桑行政書士事務所 行政書士の樋口裕昭です。
「親の財産について聞くのは不謹慎な気がする」「まだ元気なのに相続の話をするのは気が引ける」——このような思いから、親の財産状況について話し合うことを躊躇している方は多いのではないでしょうか。
しかし、親が亡くなってから初めて財産を調べ始めると、予想外の借金が見つかったり、不動産の権利関係が複雑だったり、デジタル資産の存在に気づかなかったりと、様々な問題に直面することがあります。相続開始後に慌てて対応するのではなく、親が元気なうちに財産状況を把握し、必要な準備を進めておくことが、円満な相続への近道です。
今回は、親の財産状況を生前に把握することの重要性、家族で話し合うための切り出し方、財産目録の作成方法、そして専門家を交えた家族会議の進め方について詳しく解説します。

なぜ生前に財産状況を把握すべきなのか
相続開始後の混乱を防ぐ
親が亡くなった直後は、葬儀の準備、関係者への連絡、役所への届出など、やるべきことが山積みになります。その中で財産調査を一から始めるのは、精神的にも物理的にも大きな負担です。
生前に財産の全体像を把握しておけば、相続開始後の手続きをスムーズに進めることができます。どこに何があるか分かっていれば、必要な書類もすぐに揃えることができます。
隠れた借金や債務の発見
相続では、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金や債務)も引き継ぎます。親が亡くなってから多額の借金が判明すると、相続放棄を検討しなければならず、3ヶ月という限られた期間内に重要な決断を迫られます。
生前に財産状況を把握しておけば、借金の有無や金額を事前に知ることができ、対策を立てる時間的余裕が生まれます。
遺言書作成の準備
財産の全体像が明らかになれば、遺言書の作成もスムーズに進みます。何をどう分けるかを具体的に検討でき、相続人間のトラブルを未然に防ぐための遺言内容を考えることができます。
デジタル資産の把握
最近では、ネット銀行、ネット証券、仮想通貨、電子マネーなど、紙の通帳や証券がないデジタル資産が増えています。これらは生前に情報を共有しておかないと、相続開始後に存在すら気づかない可能性があります。
認知症対策
親が認知症になってしまうと、財産の管理や処分ができなくなります。成年後見制度を利用する必要が出てきますが、手続きには時間がかかります。
元気なうちに財産状況を把握し、必要に応じて家族信託や任意後見契約などの対策を講じておくことで、将来のリスクに備えることができます。
親に財産の話を切り出す方法
心理的ハードルを乗り越える
「財産の話をするのは不謹慎」という心理的ハードルは、多くの人が感じるものです。しかし、この話し合いは親の死を前提にしたものではなく、「家族の将来のための準備」として捉えることが大切です。
「お父さん(お母さん)に万が一のことがあったとき、私たちが困らないようにしておきたい」という視点で話すと、親も受け入れやすくなります。
切り出すタイミング
自然な形で話題にできるタイミングを選びましょう。
年末年始やお盆など、家族が集まる機会、親の誕生日や敬老の日などの節目、親が体調を崩した後の回復期、知人や親戚の相続トラブルの話題が出たとき、テレビや新聞で相続に関するニュースを見たときなどが適しています。
具体的な切り出し方
いくつかの効果的な切り出し方を紹介します。
「最近、友人の親が亡くなって、相続手続きがすごく大変だったらしいんだけど、うちも少しずつ準備しておいた方がいいかな」という、他人の事例を引き合いに出す方法があります。
「この前、終活セミナーに行ってきたんだけど、エンディングノートっていうのがあるらしいよ。一緒に書いてみない?」と、エンディングノートをきっかけにする方法も有効です。
「税理士さんに相談したら、相続税のことも考えておいた方がいいって言われたんだけど、財産の概要を教えてもらえる?」と、専門家のアドバイスを理由にする方法もあります。
また、「認知症になると銀行口座が凍結されて大変らしいから、今のうちに対策を考えておきたいんだけど」と、将来のリスクに備える視点で話す方法も効果的です。
親が話したがらない場合の対処法
親が財産の話を避けたがる場合もあります。そのような場合は、無理に聞き出そうとせず、段階的にアプローチしましょう。
まずは、「どこに何があるか」という情報だけでも共有してもらうことから始めます。「通帳や権利証はどこにしまってあるの?」といった質問なら、比較的答えやすいでしょう。
また、「万が一のとき、私たちが困らないように」という視点を強調し、親のためではなく子どものために必要な情報だということを理解してもらいます。
財産目録の作成
財産目録とは
財産目録とは、被相続人の財産をリスト化したものです。プラスの財産とマイナスの財産の両方を記載し、相続財産の全体像を一覧できるようにします。
プラスの財産の項目
不動産
自宅、投資用不動産、駐車場、農地、山林など、すべての不動産を記載します。所在地、面積、固定資産税評価額、購入時期なども記録しておきます。
預貯金
銀行、信用金庫、ゆうちょ銀行など、すべての金融機関の口座を記載します。支店名、口座番号、残高も記録します。ネット銀行の口座も忘れずに記載しましょう。
有価証券
株式、投資信託、債券などを記載します。証券会社名、銘柄、数量、評価額を記録します。ネット証券の口座も確認が必要です。
生命保険
加入している生命保険、医療保険などを記載します。保険会社名、証券番号、保険金額、受取人を記録します。
その他の財産
貴金属、骨董品、美術品、自動車、ゴルフ会員権、知的財産権(特許、著作権など)、貸付金(他人に貸しているお金)なども記載します。
デジタル資産
仮想通貨、電子マネー、ポイント、オンラインサービスのアカウント(有料サービスの契約など)も確認します。
マイナスの財産の項目
借入金
銀行からの住宅ローン、カードローン、自動車ローンなどを記載します。借入先、残債額、返済期限を記録します。
クレジットカードの未払金
利用残高や分割払い、リボ払いの状況を確認します。
連帯保証債務
他人の借金の連帯保証人になっている場合、その内容を記録します。
未払いの税金や公共料金
固定資産税、住民税、所得税、健康保険料、光熱費などの未払い分を確認します。
財産目録の作成方法
エンディングノートを活用する方法が手軽です。市販のエンディングノートには財産目録の記入欄があり、項目に沿って記入していくだけで完成します。
エクセルやGoogleスプレッドシートで作成する方法もあります。自由にカスタマイズでき、更新も簡単です。当事務所のサービス紹介ページにおいても「未来扶桑お役立ちライブラリー」を開設しており、その中で無料でダウンロードしてご利用いただけるエクセル版「60歳からの財産目録作成テンプレート」をご提供しておりますので、是非ご活用ください。
さらに詳しく行うには専門家に依頼する方法もあります。行政書士や司法書士に依頼すれば、財産調査から目録作成まで一括してサポートしてもらえます。
より深くお知りになりたい方は、こちらのコラム「60歳から始める財産目録作成〜現代に必要な新しい視点とは〜」をご覧ください。
定期的な更新
財産目録は一度作成して終わりではありません。財産状況は変化するため、年に1回程度、定期的に更新することが大切です。
家族会議の進め方
参加者を決める
基本的には、親と将来の相続人(配偶者、子どもなど)が参加します。必要に応じて、行政書士、税理士、司法書士などの専門家にも同席してもらうと、専門的なアドバイスを受けながら話し合いができます。
話し合うべき内容
財産の現状確認
財産目録をもとに、現在の財産状況を共有します。
遺言書の作成について
遺言書を作成するかどうか、作成する場合はどのような内容にするかを話し合います。
相続税の見込み
財産の総額から、相続税がかかるかどうかを確認します。基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、税理士に相談することを検討します。
認知症対策
家族信託、任意後見契約、財産管理委任契約などの対策を検討します。
葬儀やお墓の希望
葬儀の規模、形式、予算、お墓の希望などを聞いておきます。
デジタル資産の取り扱い
SNSアカウント、ブログ、クラウドストレージなどのデジタル資産をどうするか話し合います。
家族会議での注意点
親の意思を尊重する
子どもの都合で財産の分け方を決めようとするのではなく、あくまで親の意思を尊重することが大切です。
兄弟姉妹間で公平に情報共有する
特定の子どもだけが財産状況を知っているという状況は、後々のトラブルの原因になります。情報は兄弟姉妹全員で共有しましょう。
感情的にならない
財産の話は感情的になりがちです。冷静に、建設的に話し合うことを心がけましょう。
記録を残す
話し合った内容は議事録として記録し、参加者全員で共有します。
専門家のサポート
行政書士のサポート内容
行政書士は、財産調査のサポート、財産目録の作成、遺言書の文案作成、家族会議のファシリテーション(進行役)、エンディングノートの作成サポートなどを提供します。
第三者である専門家が入ることで、家族だけでは話しにくいことも話しやすくなり、法律的に正確な情報を得ながら話し合いを進めることができます。
他の専門家との連携
相続税の試算や節税対策については税理士、不動産の評価や登記については司法書士、家族信託の設計については専門の司法書士や弁護士など、必要に応じて適切な専門家と連携してサポートします。
生前準備で活用できる制度
家族信託
家族信託とは、親(委託者)が自分の財産を信頼できる家族(受託者)に託し、管理・運用してもらう制度です。親が認知症になっても、受託者が財産を管理できるため、柔軟な財産管理が可能になります。
より深くお知りになりたい方は、こちらのコラム「家族信託で実現する認知症対策〜親の財産管理を安心して任せる仕組み〜」をご覧ください。
任意後見契約
任意後見契約とは、将来認知症などで判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ後見人を指定しておく契約です。親が元気なうちに信頼できる人を後見人として選んでおくことができます。
より深くお知りになりたい方は、こちらのコラム「任意後見契約で備える将来〜自分で選ぶ財産管理の形」をご覧ください。
生前贈与
相続税の節税対策として、生前に財産を贈与する方法もあります。年間110万円までの贈与は非課税(暦年贈与)です。ただし、税制改正により、相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算されるようになったため、計画的な実行が必要です。
エンディングノート
法的拘束力はありませんが、親の希望や想いを家族に伝えるツールとして有効です。財産のこと、葬儀のこと、医療のこと、家族へのメッセージなどを記録できます。
まとめ
親の財産状況を生前に把握することは、決して不謹慎なことではありません。むしろ、家族の将来のために必要な準備であり、親への思いやりでもあります。
財産の話を切り出すのは勇気がいることですが、適切なタイミングと方法を選べば、親も理解してくれるはずです。家族全員で財産状況を共有し、必要な準備を進めておくことで、いざというときに慌てることなく、円満に相続手続きを進めることができます。
財産目録の作成、遺言書の準備、認知症対策など、生前にできることはたくさんあります。専門家のサポートを受けながら、家族で話し合う機会を持つことをお勧めします。
今回のコラムが、皆さんと親御さんとの大切な会話のきっかけになれば幸いです。生前の相続準備に関するご質問や不安な点がございましたら、お気軽に当事務所のお問合せフォームからご相談ください。皆さんからのご感想やご意見もお待ちしております。
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