相続税の基礎知識~遺言書作成前に知っておくべき税制~
皆さん、こんにちは。未来扶桑行政書士事務所 行政書士の樋口裕昭です。
遺言書作成のご相談の際、「相続税がかかるかどうか心配で...」というお声をよく耳にします。確かに、遺言書で財産の分配方法を決める際、相続税の仕組みを理解しておくことは大切です。
今回は、遺言書作成の前提知識として知っておきたい相続税の基本的な仕組みについて解説いたします。ただし、個別具体的な税額計算や節税対策については税理士の専門領域となりますので、本記事では一般的な制度の概要をお伝えするにとどめます。

相続税とは何か
相続税は、亡くなった方(被相続人)から財産を相続した際に、その財産に対して課される国税です。しかし、すべての相続に相続税がかかるわけではありません。
実は、相続税の申告が必要となるのは、全体の約8から9パーセント程度といわれています。つまり、多くの方は相続税を納める必要がないのです。その理由は「基礎控除」という仕組みがあるためです。
相続税の基礎控除とは
基礎控除とは、「この金額までは相続税がかかりません」という非課税枠のことです。相続財産の総額が基礎控除額以下であれば、相続税の申告も納税も必要ありません。
基礎控除額の計算式
基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
この計算式は現在の税制に基づくものですが、遺言書作成時には必ず最新の情報を税理士にご確認ください。
具体的な計算例
■配偶者と子ども2人が相続人の場合(法定相続人3人) 基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円
■配偶者と子ども1人が相続人の場合(法定相続人2人) 基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 2人) = 4,200万円
■配偶者のみが相続人の場合(法定相続人1人) 基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 1人) = 3,600万円
つまり、相続財産の総額がこれらの基礎控除額を下回れば、相続税はかからないということになります。
法定相続人の数え方
基礎控除額を正しく計算するためには、法定相続人の数を正確に把握する必要があります。
配偶者がいる場合
配偶者は常に法定相続人となります。配偶者に加えて、次の順位で法定相続人が決まります。
・第一順位:子ども(子どもが亡くなっている場合は孫) ・第二順位:親(親が亡くなっている場合は祖父母) ・第三順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪)
配偶者がいない場合
配偶者がいない場合は、上記の順位に従って法定相続人が決まります。
注意点
法定相続人の数は、実際に財産を相続するかどうかに関わらず、民法で定められた相続人の数でカウントします。たとえ遺言書で「長男にすべての財産を相続させる」と書いた場合でも、次男や三男がいれば、その人数も法定相続人としてカウントされます。
相続税の課税対象となる財産
相続税の計算では、まず被相続人が持っていた財産の総額を把握する必要があります。
プラスの財産(課税対象となる主な財産)
・現金・預貯金 ・有価証券(株式、投資信託など) ・不動産(土地・建物) ・生命保険金(一定額を超える部分) ・死亡退職金(一定額を超える部分) ・貴金属、骨董品、自動車など ・著作権、特許権などの権利 ・貸付金、売掛金などの債権
マイナスの財産(控除できるもの)
相続税の計算では、プラスの財産からマイナスの財産を差し引くことができます。
・借入金、未払金などの債務 ・葬儀費用(一定の範囲内)
非課税財産
以下の財産は、相続税の課税対象から除外されます。
・墓地、墓石、仏壇、仏具など ・生命保険金・死亡退職金の一定額(500万円×法定相続人の数)
相続税と遺言書作成の関係
では、相続税の知識が遺言書作成にどう関わってくるのでしょうか。
基礎控除額を超える場合の配慮
相続財産が基礎控除額を超える場合、相続税が発生します。このような場合、遺言書で財産の分配方法を決める際に、相続人それぞれの税負担も考慮することが望ましいといえます。
ただし、具体的な税額計算や節税対策については税理士の専門領域となりますので、遺言書作成と並行して税理士にご相談されることをお勧めします。
配偶者の税額軽減制度について
相続税には「配偶者の税額軽減制度」という特例があり、配偶者が相続した財産については、一定の金額まで相続税が軽減される仕組みがあります。
ただし、この特例の適用には条件があり、また一次相続(夫婦の一方が亡くなる相続)だけでなく二次相続(残された配偶者が亡くなる相続)まで見据えた検討が必要な場合もあります。
このような税務上の判断については、税理士にご相談いただく必要があります。
小規模宅地等の特例について
自宅や事業用の土地については「小規模宅地等の特例」という制度があり、一定の条件を満たせば土地の評価額を大幅に減額できる場合があります。
この特例の適用可能性についても、遺言書作成時に念頭に置いておくと良いでしょう。ただし、適用要件の詳細な判断や評価額の計算は税理士の専門領域となります。
生前贈与と相続税の関係
遺言書作成を検討される方の中には、生前贈与についてもご関心をお持ちの方が多いようです。
暦年贈与の基本
年間110万円までの贈与には贈与税がかからないという「暦年贈与」の制度があります。
ただし、2024年の税制改正により、相続開始前7年以内の贈与については相続財産に加算されることとなりました(2027年から段階的に適用)。このため、生前贈与を検討される場合は、最新の税制を踏まえた対応が必要です。
相続時精算課税制度
2024年の税制改正により、相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が新設されました。この制度の活用についても、個々の状況に応じた判断が必要となります。
これらの生前贈与に関する税務上の判断については、必ず税理士にご相談ください。
遺言書作成における行政書士と税理士の役割分担
遺言書作成にあたって、行政書士と税理士がどのように役割を分担するのか、整理しておきましょう。
行政書士の役割
・遺言書の法的要件の確認 ・遺言書の文案作成 ・公正証書遺言作成の手続きサポート ・相続人・相続財産の調査 ・遺言執行に関する助言
税理士の役割
・相続税額の試算 ・節税対策の提案 ・財産評価の専門的判断 ・相続税申告書の作成 ・税務署との対応
当事務所では、必要に応じて提携税理士をご紹介し、法律面と税務面の両面から適切なサポートを提供できる体制を整えております。
遺言書作成前に確認すべきこと
相続税の観点から、遺言書作成前に確認しておくべきポイントをまとめます。
財産の総額把握
まずは、ご自身の財産の総額を概算で把握することが大切です。以前のコラムでご紹介した財産目録の作成が、ここで役立ちます。
「60歳から始める財産目録作成〜現代に必要な新しい視点とは〜」
基礎控除額との比較
財産総額が基礎控除額を大きく下回る場合、相続税を過度に心配する必要はありません。遺言書では、ご自身の意思を反映した財産の分配方法を中心に検討できます。
一方、財産総額が基礎控除額を超える、あるいはその近辺にある場合は、税理士に相談しながら遺言書の内容を検討されることをお勧めします。
専門家への相談タイミング
相続税の申告が必要になりそうな場合は、遺言書作成の早い段階で税理士にご相談いただくことで、より効果的な相続対策が可能となります。
まとめ
今回は、遺言書作成の前提知識として、相続税の基本的な仕組みについて解説しました。重要なポイントをまとめます。
相続税には基礎控除があり、多くの方は相続税の心配をする必要がないこと。基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算されること。相続財産が基礎控除額を超える場合は、税理士への相談が必要となること。遺言書作成においては、法律面は行政書士、税務面は税理士という役割分担があること。
相続税の詳細な計算や節税対策については税理士の専門領域ですが、基本的な仕組みを理解しておくことで、遺言書作成をより適切に進めることができます。
当事務所では、遺言書作成のサポートとともに、必要に応じて提携税理士のご紹介も行っております。法律面と税務面の両面から、皆さんの「安心できる相続の準備」をサポートいたします。
今回のコラムの内容はいかがでしたか。相続税に関する疑問や、遺言書作成についてのご質問などがございましたら、お気軽に当事務所のお問合せフォームからお聞かせください。皆さんからのご意見・ご感想をお待ちしております。
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